実演鑑賞
満足度★★★★★
🅱️#よし乃 #小林らら
#鈴木伽実 #遠藤留奈
シングルキャスト
#清水ゆり #ジョディ
#酒井和哉 #小野塚茉央 他(敬称略)
【千秋楽】開場時の隣人の部屋が秀逸。清水さんの作曲作業の環境を想像して楽しむ。ウォーミングアップの要素より、しっかりと作られていることを確認。つまり、隣人だけは85分の上演。そしてあの時間の生活音とBGMが『友達』シバリで粋。ユーミンの『Hello, my friend』から始まって坂本九『ともだち』でポチッ。
積まれたBOXに仕込まれたスマホがそれぞれ持ち主が登場する動画を再生している仕込みも面白い。
不動産屋?のジョディさんが物件を紹介するシーンの音楽と融合した完成度がヤバイ。カップルが契約した56番の賃貸物件。三人の鍵ダンスが美しくて悲しい。結ばれた二人が12号室に描いた未来と、スマホで愛を語るスーラッタッタの向こうに見ていたものの、いったいどこに責められることがあったろうか。
ショパン『別れの曲』の中で、引き裂かれた痛みを時間の経過で麻痺させ、繰り返す日常によって元気になっていくオトコに対し、彼女は絶望の縁で遂に背中のファスナーに手を回す。なんとも心憎い演出で、まんまと胸を締め付けられる。
丹田に響く轟音の中、がんじがらめに捉えられ逃げられないオトコを観ながら不覚にも込み上げてしまった。
隣人は、もう隣で何が起きていようともアイマスクで見て見ぬふり。
だから……やがて……。
春から一人の生活を始める娘たちの部屋の前で、父の「今で〜す」が聞こえないことを願うばかり。
特筆すべきは、よし乃さんと小林ららさん。
よし乃さんの滑らかな身体と動きと発声が、オトコの悲哀を最大限に増幅させた。その役を演ずる理由が匂い立った。
小林ららさんからは一瞬たりとも目が離せない。万華鏡のように変わる表情は1ミリの隙もないプロフェッショナルなダンサーの証。警官を丸め込むラインダンスの首振りでも、首を倒すカウントで必ず新しい表情を打ち込んでくる。買い物袋に約束のモノが無くたって動じない(後で出てくるのだけれど)。あんなに楽しそうにステージに立つ姿を観たらハッピーにならないはずがない。その上、役と作品の流れに沿った感情まで手に入れて昂らせ溢れさせ、ブルーシートを撫でながら人間の奥底に潜む二面生を立ち上げるのだからお手上げ。その証拠に、裏で赤い紅を引く表情は、もう完全に獲物を狙う戦闘態勢。スイッチングがスゲ〜よ。
それでも、全てを捧げてでも牛乳を貰ってみたいと願ってしまった自分に、男の浅ましさを見て逃げ出したい気分になった。地獄の扉を叩くようなバスタムの重低音が身体中に響いている。
千秋楽を含む最後の4公演を観たけれど、ずっと新鮮だった。
とんでもない作品が上演され、目撃者になれたことを幸せに思う。
それでもきっとまた進化を遂げ、また披露してくれるに違いない。楽しみに待とう。