映像鑑賞
満足度★★★★
正月に配信映像を鑑賞。画面クリックですぐ本編に入り、無駄な場面なく見入って1時間半、番外公演らしいサイズでも中身十分の饅頭であった。
終幕の場面の続きがあっても良さそうだが、問題が出切った所で話を切り上げている。
「クィンテットPR」という企画会社を起業した5人の船出の日と、その7か月後の状況が描かれるが、出だしで社長が「大きな夢」を語り、威勢よく乾杯と来れば、前途多難を予感せずにいないが、場面変って七か月後、豈はからんや成功譚とは程遠い状況である。早くも内憂でガタついている。一方彼らの企画の売り込み先であるテレビ局(制作会社?)側の内部事情も描かれ、「業界」に横行しているだろう非公式な売込みやパワハラぎりぎりの駆け引きを十分想像させる場面のリアリティは、その八方塞がりに観客を鬱屈した気分に落とすが、索漠として映じていた風景に真実の水脈が見えて来る。
しがらみが支配する業界での新規参入は、「良い企画を売り込む」だけでは立ち行かない事が素人目にも想像できるが、その通りに会社の業績が思わしくないのは、社長の「勝算」の裏付けがなく(芝居では殆ど表面に出て来ない)、社員を叱咤するしか能がない(そういう場面しか切り取られていないので)事が原因でしょ? というあたりをチクリとやりたい芝居かな、と前半「勘違い」したが、実は違った。不良がたまに良い事をすると好感度抜群、みたいに、この芝居では人の熱意や善意が蹴散らされておかしくない(視聴率至上主義の)社会の中で、筋を通そうとする人間の意志が一抹の希望を担保するのだ、という話。
巨大資本に利するための制度的足場が整えられていく(またそういう話題が報道に乗らない)日本で、私は殆ど希望を見る事ができないが、この芝居のディレクターのように視聴率を慮りながらも社会に寄与する情報を選択的に流す、という筋を通す人間が(意志が)風向きを変える事もある、人間捨てたものではない、という作者の思いは受け取れた。