実演鑑賞
満足度★★★★
今年5月駿府城公園での「アンティゴネ」野外公演以来のSPAC観劇。
静岡芸術劇場での観劇となるとコロナ直前の2020年2月「メナムの日本人」以来1年半振りだ。
早速芝居について。
フランス人演出家によるフランス人俳優と合同のチェーホフ作品舞台。舞台下(側面)の字幕表示を時々読みながらの観劇であったが位置的には見やすく大きな支障ではなかった。アート系な演出はさほど意外性がなく、大気音(ゴォォ)や明確な和音にならない音響が微かに鳴り、照明も抑え気味で、ロシアの空を思わせる鈍い光を放つ巨大なホリゾントにさえ人間が影に見える位。これらは舞台上を対象化させ、観客は地球上、歴史上の一点のはかない生を見る感覚を持つ。
実際には光は当っているのだろうが、絵画的な印象がそんな具合で、俳優も然り、各人ユニークな人物像を演じているが脱色され、だだっ広いステージの上で一人一人にフォーカスされず、観客からはどこかよそ事という感覚である。
そんな事で、今受ける印象の範囲を大きくはみ出す事はないだろう事が予想されてしまうので、眠気が襲う。またフランス語の発語というのが(仏映画もそうだが)感情の直接的アタックがなく(異言語ゆえ?)、日本人俳優が発語する場面との落差も大きい(各国俳優は母国語で台詞を喋る)が、劇が進むにつれそれは幾許か融合し解消された感はあった。
眠気は襲うが入眠には至らず、字幕の読みそびれ程度で済んだ。ただし、ストーリーを把握していなかった「桜の園」の予習をしていなければ爆睡したと思う。
その上で演出の意図を肯定的に感じた部分は、俳優らがマスクを着用している事と関係するが、現代、殊にコロナ期以降の厭世観を体現した舞台になっていた。
SPACの方針なのか、5月の野外公演でも布の口当てを着用していたのには驚いたが、今回もマスクを当てており、最初はげんなりしてしまったが、不思議と声が籠る事はなく(通気の良い素材を選んだのだろうか..とすれば感染対策ではない)、見た目の違和感もなくなり、最終的には現代を映す衣裳に思えてきた。