実演鑑賞
満足度★★★★
SNSによる言葉の暴力が、若い歌手志望の女性を自殺に追い込む。本作では、攻撃される方だけでなく、攻撃する人の抱えたトラウマ、葛藤も描かれる。被害者、「加害」者が、自分の抱えた魔物と向き合うことで、許しと再生がもたらされる。楽曲も静かなバラードに、いい曲があった。
デビューを目指す若い女性歌手shiro(佐藤彩香)の歌唱場面(ビデオチェックの設定)、そのときに彼女の自殺、救急搬送の知らせが来るところから始まる。なぜ自殺に至ったのかが紐解かれていく。
shiroの大学の先輩で、小説家を目指す矢田(西田藍生)が、構成作家を務めるテレビのリアリティーショー。矢田は自信ありげに振る舞うが、自分の才能に疑いを持ち、書きたい小説もなかなか進まない。軽薄だが出世街道にいるディレクター久世=クゼ(遠山裕介)から矢田は「天然で明るいshiroの人気が、メインの女優(スポンサーが付いて、デビューが内定している)を食っているから、shiroの人気を落とさせろ」と指示を受ける。ところが、なかなかうまく行かず、逆にshiroを局もスポンサーも応援して、デビューが決まる。が…。
西田が目指す物語を語る「素晴らしい物語」と、佐藤が死を考える「もしも私が神様だったら」がこのミュージカルの白眉。両人の歌もうまい。とくに西田は、ここまで聞かせる歌がないので、初めて内面を語る歌には目を見張った。
脇筋の曲だが、リアリティーショーの影の仕掛け人である広告代理店の大物プロデューサー黒岩(羽場裕一郎)が歌う「死ぬのは怖くない」がよかた。私自身、詞に素直に共感できた。「意外と楽しい人生だった。仕事も遊びも満足できた(やりたいことはそれなりにやった=私の解釈)」。そう思えるのだから、「ワーニャ伯父さん」のように思っていたこの人生も、意外と悪くないのだろう。