人間讃歌 公演情報 エンパシィ「人間讃歌」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    演劇好きな人間には大好物、涎を垂らすような御馳走。稽古場にパイプ椅子を二列並べたような会場。舞台セットはDIY感漂う裸の木材の建前、実に良く出来ている。すぐ目の前で繰り広げられる取っ組み合いや集団演舞。これだけ近くに囲まれていたら、役者もやりにくかっただろうに。プロのダンサーでもある引間文佳(ひきまあやか)さんの舞踏が爆発的で、この狭い空間をズタズタに切り裂いてみせた。余りの激しさに履いていたパンプスのソールが剝がれてしまう程。(後半は裸足で熱演)。
    岸田國士(くにお)の短編戯曲三本を交互にシャッフルしザッピングするように送る。岸田國士は名前しか知らなかったがかなり面白い。何か既視感を感じ調べてみたら、成瀬巳喜男の『驟雨』が岸田戯曲を組み合わせたものだった。この感じ、確かに成瀬巳喜男だ。磯部莉菜子さんが借りてきた戯曲集をベンチで朗読していく内に作品世界にのめり込んでいく構成になっている。

    A 命を弄ぶ男ふたり
    夜、線路を見下ろす土手で自殺の為、汽車を待つ男。そこに現れる顔中に包帯を巻いた男。
    B 恋愛恐怖病
    夕暮れ時、海を見下ろす小高い砂丘の上で腰を下ろしている男女二人。ツンデレ会話のような互いの本音の探り合いが続く。突如『Let It Go(ありのままで)』が炸裂する異色の演出。
    C 屋上庭園
    デパートの屋上庭園で、久方振りに偶然再会した男二人。どちらも奥さんを連れている。一人は裕福そうで、一人は見窄らしそうにも見える。

    全ての話に共通するのは上下関係である。マウントの取り合いとも言えるが、どちらも互いの投影するイメージに対しての優劣に異常に拘り抜く。死ぬことよりも自分を見透かされることに非常に怯えている。岸田國士は人間のそんな奇妙な習性が面白くて仕方がなかったのだろう。
    もっと大きな会場で沢山の観客に味わわせるべき作品。このような試みを是非続けて頂きたい。演出の三上陽永氏はセンスがある。
    勿論出演する全ての役者が素晴らしいのだが、個人的MVPは『屋上庭園』の裕福な友人役、久保貫太郎氏。この役を説得力のある、胸を震わす友人へと見事に昇華してみせた。『命を弄ぶ男ふたり』の包帯男役、中田春介氏は眼と口だけしか見えない容貌で、声という武器を駆使してこの奇妙な男の存在にリアリティーを乗せた。

    ネタバレBOX

    A①
    B①
    C①
    A②
    C②
    B②
    A③

    映画っぽい構成で、森田芳光作品を連想。
    A①の後、引間文佳さんのコンテンポラリー・ダンスが突如始まる。オープニングとして出演者一同踊り狂うのだが、『命を弄ぶ男ふたり』の串田十二夜(じゅうにや)氏の肉体美ダンスも魅力的。『恋愛恐怖病』は夏目漱石っぽい登場人物で、『それから』を意識させる。好きな女をわざと振って、他の男のものとなった彼女のことを独り想うラスト。(演出次第で解釈も変わる)。『屋上庭園』の二人の妻、今泉舞さんと伊藤麗さんの出番が驚く程少なすぎる。何て贅沢な使い方をすることか。

    物語としてのテキレジは『命を弄ぶ男ふたり』のラストのみ。包帯をした男が自ら包帯を外すと、顔に何一つ火傷の痕などない。「なあ」と、眼鏡をかけた男に声を掛け一緒に去って行く。いろんな解釈が可能だが、これは蛇足だったような。

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    2021/12/15 21:13

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