パ・ラパパンパン 公演情報 Bunkamura / 大人計画「パ・ラパパンパン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    コロナに翻弄された一年の終わりを笑いと祈りで締めくくる祝祭劇だ。休憩を入れて、3時間10分。夜の劇場を出ると、町は戸惑いながらもクリスマスを迎えようとしている。その街をパ・ラパパンパンと口ずさみながら家路につける音楽劇である。
    こういう観客の心を和ませ癒す舞台は極めて少ない。この劇場はかつて串田和美が芸術監督だった。オンシアター自由劇場を率いて、わが国で初めてのエンタティメントの音楽劇の道を拓いた。その伝統を、同じ小劇場でも、全く違う背景から出てきた松尾スズキが受け継いでいる。本人は意識していないかもしれない。しかし、劇場がその記憶を受け継いでいる。日本の劇場文化の成熟に感動がある。成功に理由はいくつかあるが、第一はこの見えない劇場の力だと思う。
    もちろん、個々の作品の良さもある。「パ・ラパパンパン」について言えば、作構成がいい。
    主人公は、ろくでもない青春小説しか書けないまま三十歳も半ばになった女流作家(松たか子)だ。担当の編集者(神木隆之介)に持て余されながら新境地のミステリー小説に挑む。この設定の中でスクルージ(小日向文世)が殺された謎を追う「クリスマスキャロル」のミステリー化が図られる。ミステリ内容と上演の季節がぴったりと合う。古典の登場人物たちと、現代の向こう見ずな作家と編集者の気ままなミステリ化とが交錯する。作者はテレビでは第一線だが舞台は珍しい藤本有紀。テレビで培った時代とのテンポの合わせ方がうまい。ダレそうな話を現代の突っ込みを入れながらいいテンポで運んでいって、最後には大団円にもっていく。その大団円もいかにもテレビ的な万人を感動させる納め方なのだが、それがうまく収まる。そこへ主題歌を持ってくるうまさ!
    松たか子がいい。三流のダメな作家が、それでもやはり書かなければとなるドラマを、このクリスマスストーリーの中で生き生きと演じている。歌がうまい。主題歌は三回歌われるが、三つのバージョンそれぞれに歌い方を変えていて、ことに、神の声ともいうべき聖歌風に歌い出した時には劇場が吞まれた。(この演目のタイトルは、何のことかと思っていたが、その謎は途芝居の中で明かされ、抜け目なくクライマックスに続いていく)
    松だけではない。スクルージの小日向をはじめ古典の人物たちを演じる大人計画のお馴染のメンバーも役を面白く演じてドラマを盛り上げている。
    スタッフワークもよく、作曲の渡辺祟は、こういう芝居での音楽の役割をよく心得ている。説明的な音楽はなく、音楽になれば、観客を打つ。美術(装置・衣装)、音響もよかった。
    昨年の「フリムンシスターズ」も松尾スズキらしくてよかったが、ここでは劇場芸術監督の演出としていい仕事をしている。

    ネタバレBOX

    [パ・ラパパンパン」というのは神の声を伝える先導者の太鼓の音である、と劇中説明されるが、見事にそれで締めくくられた。皆神の子になるすばらしいクリスマスの夜だ。

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    2021/11/20 14:17

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