実演鑑賞
満足度★★★★
創作戯曲が二作ほとんど同時に東京の主要な劇場で公演されるのは極めて珍しい。
好評だったiaku公演「フタマツヅキ」に続いて、老舗大劇団の文学座による「ジャンガリアン」。若手劇作家の中でも、ここ数年、一作ごとに力をつけている急成長の関西出身の横山拓也、大忙しである。
「フタマツヅキ」は東京の噺家脱落一家の物語だったが、こちらの舞台は関西。同じような庶民の市井劇である。
舞台は創業60周年の老舗のとんかつ屋「たきかつ」の店。ネズミが頻りに出没する古ぼけた店をリニューアルして店を継ぐと家業には見向きもしなかった長男の琢己(林田一高)が戻ってきた。商店街の中でも独自老舗を売り物にしてきたが、母(吉野由志子)と一人だけのとんかつ揚げの職人(高橋克明)ではのれんを守るだけで経理も満足にできていない。将来は会社組織にして商店会にも加入したいが商店会長は、母の離別した先夫(たかお鷹)で琢己の実父、というのも話をややこしくしている。外人留学生支援をしている常連客(金澤映実)がねずみ退治には対抗する別の種のねずみを飼うのがいいと、ジャンガリアン種のネズミの繁殖をやっているモンゴルからの留学生(奥田一平)をつれてくる。人手は欲しいのだが、外国人という事で周囲の目は厳しい。・・・・
というような物語の展開で、二年前に障碍者の性処理という難しい問題を普遍的なドラマにした「ヒトハミナヒトナミノ」と同じ、横山戯曲、松本演出。先の「フタマツヅキ」に比べれば、町内の小企業とか、外国人労働者問題とか今日的な問題を扱ってはいても、大劇団公演らしい素材選びと処理である。
それだけに、無難なウエルメイド劇に仕上がっていて、それが残念とも、よかったともいえる出来である。劇場もサザンになると文学座・横山の組み合わせでも満席にはならず、7分の入り、老人の観客が多いからこういう穏当な舞台になるのもやむを得ないだろうが、この組み合わせなら、やはり「ヒトナミノ」のような意欲作を見たくなる。少し回数を増やしても、アトリエで次回作を見たくなる。劇場が大きくなったせいか、出演者にもいつもの人の肌触りが薄い。大阪の話なので当然大阪弁だが、新喜劇なら、こうは言わないだろうというところがかなりあって、もちろん、文学座だから動きもよく、セリフはちゃんと方言指導通りにやっていて、よく聞こえもするが、そうなればなるほど、大阪弁の独特のニュアンスからは遠くなっていく。東京の芝居だなぁ、という舞台だった。