実演鑑賞
満足度★★★★
演劇の世界にアカデミー賞があるならば、村岡希美さんは今年の最優秀主演女優賞かも知れない。時間に余裕のある女優(若しくは女優志望の方)は絶対観ておいた方が良い。作品なんか所詮役者を飾る容れ物に過ぎない、そんな気分にさせられる。
筒井康隆が虚構と云う物を突き詰めようとしたある時期、無意識(フロイト的には夢)の奇妙さを徹底して作品化した。それは読者からすれば受け止め方の判らない未完成な物、訳が分からずつまらない物でもあった。その試行錯誤の実験小説の数々が後に「超虚構宣言」として結実していく。今になって思えば、それは”夢“の文学化。奇妙な夢を見た寝起きの気分に読者をいざなう。今作は筒井康隆作品なら「遠い座敷」や「夢の木坂分岐点」のニュアンス。フェリーニの「8 1/2」を思わせるこの屋敷の構造は、老女(村岡希美さん)の混在する記憶の中なのか、それともこの築40年の屋敷が見ている夢の中なのだろうか?これを設計した建築家(伊達暁氏)はこの建造物をまるで生き物のように愛おしみ、彼(彼女)の老いを慈しむ。美術の片平圭衣子さんの織り成すアートは眺めているだけで格別でそれは空間に沁み込んでゆく。
三階建ての広々としたデザイナーズハウスに独り住む八十近い老女。その屋敷に訪れるのは独身の息子(富岡晃一郎氏)や娘(志甫〈しほ〉まゆ子さん)、孫娘(藤間爽子〈さわこ〉さん)に孫息子(坂本慶介氏)。だがこの話の面白さは老女にしか見えない存在が多々訪れるところにあり、建築家や亡き夫(中村まこと氏)、因縁の女(李千鶴さん)も最初から居たように自然とそこにいる。
剛力彩芽にどことなく似ている藤間爽子さんが綺麗だった。「基督〈キリスト〉」と書いて無理矢理「のりすけ」と読ませる孫息子の設定センスも良い。観客を爆笑に叩き込むのは木村美月さん、息子の若い彼女役「りぼんだよ」。笑いのセンスが若い。
村岡希美さんの老女の歩き方、それだけで何を表現したいのか全てが伝わる。文学性と娯楽性の見事な両立。お薦め。