老いと建築 公演情報 阿佐ヶ谷スパイダース「老いと建築」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    こういう舞台が上演されることに感懐がある。
    まるで、昭和の新劇のようないっぱいセットの人間劇を長塚圭史が、上手に書いている。テーマは「老い」だろう。さすがに、滅びゆくものの美しさ、などという凡なところには落としていないが、阿佐ヶ谷スパイダースを率いて出てきたときのやんちゃぶりを知っているだけに、結構ウエルメイドな出来に「歳月」も感じる。人間が生きて生活する家に、今年流行の「生きた記憶」を埋め込んだあたり時代を上滑りさせない工夫もうまいものだ。いまは横浜の大きな劇場の芸術監督だもんなぁ。
    ドラマは大きな庭付きの家に住む孤老女(村岡希美)をめぐる人間模様である。亡くなった建築家の夫が残した家に住む老女はそれぞれ自分の生き方をする息子娘とは距離を置いて、ひとり毅然と生きている。昭和モダンの家のセット(美術・片平圭衣子)が単純だがよく雰囲気を出していて、今の80-50問題や介護の問題も裏に抑えながらの現代人間模様である。セリフがうまい。
    プロットの軸が、明確にならないで進んでいくので、一種の家族のシチュエーションドラマかと思っていると、最後の五分の一あたりで突然調子が変わって、ストーリーのドラマチックな謎解きになる。最初の家族風景の部分が、昭和新劇風によく出来ているので、そのまま終わるのかと思っていたらそうではなかったが、そこは賛否両論あるだろう。ドラマチックに終えるには筋立てが少し無理なのだ。
    しかし、演劇としてはよく出来ていて、長塚圭史がかつて三好十郎に入れ込んで何作かいい再演をしたことが役立っている。実話キャンペーンドラマみたいな舞台が多い中で見ると新鮮でもあるし、芝居を見たような気にもなる。
    村岡希美は、家族を押さえて現代を生きる不機嫌な老女を演じて堂々たる主演である。昭和の戦前のいい時期に生まれ、戦後も時代に沿って生き、戦前の東京郊外の家に住む東京市民の雰囲気を身にまとっている。戦後の世田谷でなく、戦前の杉並の空気が作りモノでなく出来ている(村岡花子の姪だもんなぁ。もっとも花子は大田区だったが)。昭和新劇には時に登場して、山の手女は東山千栄子が一手販売していたような役である。それで、気が付いた、というのもうかつな話だが、これは、昭和という時代を批評したドラマなのであろう。そう見れば、戦前の家を老人向けに改築しながら、その栄華の余禄で生き延びている我が令和時代の姿をこういうドラマにして見せたのが長塚圭史、というのにも感慨がある。ここが第一のみどころだ。
    昼間なのに、吉祥寺シアターは層の厚い個人客で完全に満席だった。日本の観客も成熟している。

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    2021/11/12 00:20

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