実演鑑賞
満足度★★★★★
冒頭、松たかこさん演じる作家が新作のプロットだとしてアガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」そっくりの話を始める。神木隆之介さん演じる編集者に叱られ軌道修正させられて妄想するのがチャールズ・ディケンズの名作「クリスマス・キャロル」の主人公、守銭奴スクルージが殺される「クリスマス・キャロル殺人事件」である。いやしかし、そういう設定の話なら誰かがすでに書いているだろうと調べてみると他ならぬクリスティが「ポワロのクリスマス」でクリスマス・イブに強欲な富豪が殺される話を書いているのだった(それで最初にクリスティーが出てきたのかと合点)。それは「もっと血にまみれた、思いきり兇暴な殺人を」という要望に応えて書かれた作品であるという(ウィキペディアによる)。本舞台はそれとは真逆で元ネタに近く、ほのぼのとした趣のものである。作者の藤本有紀さんはクリスティーとは違った「クリスマス・キャロル」のテイストを生かしたものをという思いでこの劇を書いたはずだ。
まあ松さんと神木さんが主演であるのだから見る前から楽しい舞台であることは分かっている。その期待は十分にかなえられ、さらに本格ミステリーとしても「ううむ」と唸らされてしまった。謎解きものなので詳しくは書けないがどなたでも楽しんでいただけることは請け合いである。
松尾スズキさん脚本・演出の「フリムンシスターズ」は全く私の好みに合わず前半で帰って来てしまった。二度と松尾ものは観ないと誓っていたのだが俳優さんの顔ぶれが良いのでそれを破ってしまった。本作は脚本が藤本有紀さんということが大きいのだろう、満足して観ることができた。藤本さんが脚本の作品を調べてみると黒木華さん主演のNHK土曜ドラマ「みをつくし料理帖」があるではないか(原作は髙田 郁(かおる)さん)。あれは繰り返し見たものだ。おっとここにも小日向文世さんがいる。
最初の歌と踊りで会場の音響が酷かったのが唯一の残念ポイントである。まあ音楽全般も期待していたほどではなかったのだが。