廻る礎 公演情報 JACROW「廻る礎」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2021/11/09 (火) 14:00

    こうしてみると、本当に終戦後の昭和史は舞台になる。演劇だから多少、強調されている部分はあるだろうが、登場する人物のそれぞれが個性的で、エネルギッシュである。戦争の惨禍からこの国をどう復興させ、残った日本人が生き抜いていこうとしているか。舞台はこのドラマを十分に堪能させてくれる。

    ジャクローは田中角栄元首相をいろんな角度から描いたシリーズで知られるが、毎度感心するのは役者が演じる政治家によく近づいているということだ。狩野和馬の田中角栄はもう、はまり役といっていい。今回も新潟から当選してきたばかりの1年生議員としてまず、登場する。主役の吉田茂を演じた谷仲恵輔にしてもそうだ。自分は本物の吉田茂を見たことがないが、小説吉田学校を読んでのイメージや写真を見て思い描いた人物像そっくりだったから驚いた。イメージが一致したのは自分だけかもしれないが、だからこそ自分には、この演劇が極めてリアリティーの高い物語として胸の内に入ってきた。このほかにも、山口シヅエはよく似ていたと思う。

    舞台の構成も秀逸だ。開幕前のアナウンスは、吉田茂の演説会に観客がきているという設定で行われる。客席は開幕前からこの政治の舞台に引き込まれているわけだ。開幕前に流れる当時の流行歌も雰囲気を高めている。

    今回のテーマは日本国憲法。GHQに押し付けられ、軍備を捨てざるを得なかった当時の状況や、朝鮮戦争が起きると百八十度態度を翻して再軍備を迫るというアメリカのご都合主義に翻弄されながらも、自分の中にある筋を曲げようとせず立ち向かっていく政治家の姿はすがすがしささえ感じる。安部政治の一強に文句も言えない今の自民党メンバーとは雲泥の違いで、どうして政治家たちは志や哲学を失ってしまったのかとため息が出る。

    そして、やはり終戦直後だ。保守も革新も、軍隊を持つか持たないかという立場を超えて、もう戦争は二度とやってはいけない、という強い信念にあふれているところは感動的ですらある。日本の国土と国民をどう守っていくか。特に外交で紛争を解決していこうとする吉田茂の信念には、本当に拍手を送りたい。敵基地を攻撃するしかない、みたいなことを言っている自民党政調会長はこの演劇を観るべきだ。

    もちろん、今の国際情勢は当時とは違うし、軍備の性能や規模も違う。だが、軍備でなく外交交渉こそ国を導く手腕であるという吉田茂のせりふは、今も色あせていない。
    この舞台は社会派劇の妙味であるドラマチックな展開と、現実世界との交錯、そして歴史の教訓、いろんな楽しみ方ができる。座高円寺という少し広い劇場で行われているのも、この舞台にふさわしい。公演終了まで幾日もないが、観ないと損するぞ。

    ネタバレBOX

    タイトルにある礎(いしずえ)とはこの舞台では国家の土台である憲法を指している。その礎が廻る、とはどういうことか。非常に示唆的なタイトルである。

    0

    2021/11/09 18:13

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大