実演鑑賞
満足度★★★★★
#紙屋悦子の青春
昨年、読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞した #枝元萌 さんと、文学座の期待の新人 #平体まひろ さんが同級生で義姉妹という配役。その効果もあってか、とっても可愛らしい枝元さんと、少し大人びた平体さんを拝見することができて楽しかった。
今作の根底にあるのは、恋も夫婦愛を含めた家族愛も包み込んだ愛情。そして戦争反対。それらの基盤は「おもてなし」の心であり、その象徴がお茶だ。「お茶ば飲みましょ」というセリフが『あなたを大切に思っています』に聞こえてくる。大切な人との時間が永遠ではないことを痛感しているからこそ、今日の続きを求め、ずっと続くと信じることで自分を勇気づける。
最近、古き良き時代とは何かを考えるようになった。今が生きやすいかと問われれば頷けないけれど、一家の大黒柱という父が君臨する昭和が素晴らしいとも言いきれない。ここでは #岸槌隆至 さんが家父長制度の象徴のような存在の兄を演じる。その声の圧が、あの敗戦までの日本の国家主義や男尊女卑の根強さを実感させた。もちろん溢れるほどの愛情があるのだけれど、かつての日本に染み付いた皇国の常識に縛られた人々の姿が映る。
国家に、性差別に押さえつけられ、大切な人の出征に心とは裏腹の言葉を発しなければならない女性の姿が痛々しい。それでも、単身赴任の夫の帰省に心躍らせたり短さに拗ねたりする妻は、なんとも可愛らしく愛しい。二人の女優さんが去り際に見せた"その場"に想いを残す雄弁な視線に射抜かれた。
枝元さんの表情を観ているだけで幸せになれるのだが、星めぐりの歌、ゴンドラの唄の鼻歌にも心を擽られる。平体さんは七色の「はい」を使い分け、淡く、それでいて確かに作品を彩った。
戦争の前後には、兄弟の嫁や恋人、親友の嫁や恋人との縁談があった。捻れた悲愛。想いを抑え或いは押し殺し託す愛と、託された愛。それを承知で受け入れ受け止める愛。飲み込んだ想いを絶筆の告白で吐き出さねば飛び立てなかった死への恐怖と理不尽な戦争への怒りと絶望。それを背負った夫婦は果たして幸せだったのだろうか。
桜を見上げ、さざ波に耳を傾け、未来に目を向けた二人。やがて車椅子を押し「お父さん」と呼ぶ女と、お父さんになった男が辿った共に歩んだ人生。描かれた二つの時間に見える二人の関係性から、狭間の時間に想いを馳せる。
車椅子から降りる際の介助で左足を叩く仕草や、壁の向こうの廊下の様子を可視化させた #藤井ごう さんの演出が光った。
#長谷川敦央 さんの因業な年寄りも #藤原章寛 さんの一本気な若者も、どちらも声が美しかった。
美しさで言えば、満開のあの花とヒラヒラと舞うそれが、谷崎潤一郎『細雪』のラストのようでウットリ。ひとつ欲を言えば、本編の居間を畳に廊下を板張りにしてほしかったなぁ。最初のシーンを工夫すればなんとか……。
しみじみとほんのりを味わえる秀作、たくさんの人に観て欲しい。