がん患者だもの、みつを 公演情報 うずめ劇場「がん患者だもの、みつを」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    かれこれ十数年以上前に名前を耳にし、その数年後やっと目にした北九州に拠点を置く話題の<劇団>うずめ劇場に対する思い入れと、劇団外の活動もあるゲスナー氏演出又はプロデュースによる舞台に対する芸術的関心とは、近似的だが異なり、舞台に対しても二つが混在する。
    この度はうずめ劇場公演である。数年前観た内田春菊作・ゲスナー演出舞台は他プロデュースで秀逸であったが、今回も春菊風味の苦甘さ滲む私好みの世界。
    もっとも今作の特徴的な部分は、表現として「逸脱」気味な部分でもあり、その一つは主役の一人を演じたうずめ団員・後藤まなみの逸脱性、そして今一つは(毎回チャレンジングな)ゲスナー氏が時折垣間見せるそれである。
    端的に言えば前者はド当たりな演技と危うい演技の波があり、がんを患う事になった揺れる中年女性の「普段の人付き合い」の場面では饒舌であるのに対し、裏側(本音=弱み)が思わず開陳される局面での変わらなさ(声の張り)が勿体ない。後者は時間的に僅かだから乗り切ってはしまうが・・気になる人は居そうである。
    一方ゲスナー氏のそれは、以前「喜劇だらけ」で一般人(演劇初体験者)を登場させた記憶が蘇るが今回は作品テーマに所縁の(その筋では知られた)人たちが出演し、芝居的には心許ない、危うい場面を作る。台詞が一言もない(のに存在感だけはある)女性出演者が舞台後半の一場面ズラリと存在を現わすのである。この不思議で不気味な趣きが、演劇作品的にはシュールで珍味の類。「がん」というテーマのみで作品を括るなどと言う野暮はやらなかろうゲスナー氏の、「味覚」の振り幅を味わう体験と言っても良いか。(拙さとアピール度は紙一重。出演したある無発語の女性の特徴的な風貌が今も脳に焼き付いている。)
    そんなこんなで本編の面白さには触れないが、ツボな場面満載、楽しい時間であった。コロナ期に生まれた劇、というカテゴリーが後に出来るとすれば、命に関わる劇は全てそれに含まれるだろう。つまりは殆ど全てのドラマは、コロナ禍によって輝きを得ることとなった、訳であるが、本作では「がん」を扱うのに「命の尊さ」といった直截なメッセージや感傷はまずもって寄せ付けないのが核であり、魅力。(要は春菊風味である。)

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    2021/10/20 04:18

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