ヌーのコインロッカーは使用禁止 公演情報 映像劇団テンアンツ「ヌーのコインロッカーは使用禁止」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い! 
    正直、「切なくて愛おしい 心温まる 笑いと涙の人情ファンタジー」という謳い文句以上の感動作。満席なのも頷ける。笑い声、啜り泣き、時に拍手と観客を巻き込んでの好公演。
    前説、仮面をつけた上西雄大氏(映像劇団テンアンツ代表)の笑いの中にも優しさ溢れる話のまま本編へ。3時間40分(休憩15分含む)という大作だが、泣き笑いという感情を揺さぶり続ける。その振幅に酔いしれているため、体感時間はアッという間だ(大袈裟か)。
    物語は、社会的なことを絡ませるわけでも、何かを比喩や暗喩するといった深い思考を巡らせる事(必要)も無く、ひたすら物語に感情をゆだねるだけ。それで満足だ。

    卑小と思いつつも気になるところ。課題と言えるか分からないが…。
    物語だけであれば、正味3時間程度もしくは切るかもしれない。本作は映画化されており、或る国際映画祭では最優秀作品賞(グランプリ)を受賞するなど評価されている。映像では容易に出来ることが、舞台では簡単に出来ない。場面転換のことである。映画ではカット割り・撮影後、編集でいかようにでも状況や情景を表現出来るが、舞台は場面転換が多くなる。その間、物語は足踏みしている。
    一方、場面転換がないと泣き笑いの感情が置いて行かれ余韻に浸る時がない。完全暗転ではなく薄暗くすることで転換作業を観せ、効果的な音楽も流し観客の意識を離さない巧さもあった。
    本作は、幅広い年代に愛されると思う。ただ上演時間が長いと年配者には(身体的に)辛いかもしれない。若い人も含め、途中休憩時には大半の人が劇場外に出て伸びをする姿があったのも事実。多くの人に観てほしい作品。ラストは感動!

    (T徳竹・主人公ヌー役編)

    ネタバレBOX

    冒頭の舞台セットは、中央にタイトルにもなっているロッカー、上手側は安酒場・ベルサイユ、下手側にたばこ屋と占い机。ただし頻繁に場面転換し、時にヤクザ事務所、ラーメン店、病院、警察署内等へ変わる。変わらないのはロッカーだけだが、ラストの変形には驚かされる。場面転換に応じてテーブル、椅子、ベット、そして望遠鏡といった道具が搬入・搬出される。

    梗概…主人公は発達障がい者の那須叶(なすかなえ)、通称ヌー(徳竹未夏サン)。26年前の12月ある寒い日、コインロッカーに捨てられた彼女は、そこが生家と思いコインロッカーを守りながら、毎日ロッカーの前で絵を描いていた。ある日、ヌーは刑務所から出所した黒迫和眞、通称カーブ(上西雄大サン)と出会う。黒迫は別れた妻子に金を送るため、ロッカー近くで覚醒剤売買をし金を稼いでいた。ある日 思い付きでヌーの絵をSNSにアップしたところ、あるバイヤーからヌーの絵を買いたいとの連絡が入り、何枚かを高額で売ってしまう。ヌーを利用しようとしていたが、彼女の純粋な心に触れる中で、彼の中に良心が生まれ出していた。そんな時、ヌーが白血病で倒れてしまうが…。

    最大の魅力は、役者陣の演技とバランスの良さ。特にヌー役の徳竹未夏さんのピュアな愛らしさが、観客の心を鷲づかみにする。カーブのこれからはずっとそばに居て守ってやる、は納得の台詞。
    情景や状況の変化に応じた場面転換、その時に流す音楽がシーンイメージに合致しており、選曲の上手さに感心。また後半の冒頭には、吉村ビソーさんが 流しの役でギターによる生演奏を聴かせ、そのまま物語の世界へ誘う。洒落た演出だ。
    色々な場面(酒場での「ベルサイユのばら」寸劇、ラーメン店でのおやじコント、ホームレスの暮らし、障がい者施設での虐めなど)が挿入されるが、その場面全体を通してヌーが住んでいる街の風景を表す。そこに住んでいる人々の暮らしや様子を垣間見せている。そして怒涛のように繰り出される笑いと涙の場面、その情動が半端ない。思わず観ている時間感覚がマヒするくらい観入ってしまう。

    この人々や街の紹介・説明そして案内をするのが、擬人化した着ぐるみ犬・ボッチ(ダメダメ人間の言葉は解る。弱き者の視点らしい)。実に愛嬌があって親しみやすいのだが、ヌーWキャストの古川藍さんが扮している。どうりで上手いわけだ。
    ラスト、ヌーの慰め独り言とボッチの悲痛な叫び、その言葉に胸が締め付けられる。感動の嵐‼

    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/10/11 19:05

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