子供の時間 公演情報 劇団文化座「子供の時間」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2021/10/08 (金) 17:00

    座席1階

    何という悲劇的結末。映画にもなったリリアン・ヘルマンの有名な戯曲で、その結末は分かっている。分かっていてもズシーンと胸に重たいものが響く、悲劇的な結末である。

    最初は他愛もない子どものウソ、言い逃れだったのかもしれない。いや、言い逃れというには少し悪質なのだが、いずれにしてもちゃんと調べればウソだとわかる与太話だったのだ。それが、大人の世界の世間体とか、あるいは自分のかわいい孫を守りたいという思いとかが、大人たちの判断を狂わせる。そして、本来は平穏な毎日と達成感を得るはずだった大人たちが自滅していく。ここまで悲劇的だと、その原因を作った孫娘のメアリーがどんな思いを胸に成長したのか、という後日談を知りたくなってしまう。普通なら、正気で生きてはいられないだろう苦しみが、彼女にものしかかっていくだろう。

    真摯な舞台を通して客席と向き合ってきた文化座が、80周年記念作にこの戯曲を取り上げたわけはいろいろあるらしい。だが、半世紀以上も前の、インターネットも携帯もなかった時代に書かれた戯曲が胸に迫ってくるのは、今の世の中を見通しているからだ。半世紀後にも、フェイクニュースや根も葉もないウソで命を落としている人が現実にいるという世の中を、だ。この戯曲が記念作に取り上げられた理由は本当はそこにあると、私は思う。

    子供じみた悪口や、冗談のつもりで流したでっち上げニュースは、ネット社会にあふれている。プロレスラーの女性が自殺した事件は、ネットに悪口(もちろん真実ではない)を書き込んだ人は書類送検されただけだった。そうしたことを目の当たりにして、私たちはフェイクニュースの恐ろしさを知る。ネットに書き込む前に、その話が真実なのか、真実と信じるに足るものであるのか、私たちは考えなければならない。

    ニュースを扱う世界では、発信されようとしているニュースが真実か、真実と信じるに足るものであるかを検証する作業、業界用語で「ウラを取る」なんて言われる作業を行っている。いや、最近は行っていないメディアもある。しかし、ウラを取らなきゃ怖くて書けない、という感覚は、ジャーナリストには最低限必要な資質なのである。ニュースがウソだったために人が死ぬなんて結果を招いてはならないのだ。

    今回の舞台を見て、ズーンと重苦しい気分になったのは、この舞台があまりにも現代社会を深く映しこんでいるからなのかもしれない。そして、ここが舞台の力強さ。カレンとマーサを演じた二人の女優の、感情や思いが黙っていても胸の内からあふれてくるような見事な芝居。そして、文化座を今も率いる佐々木愛さんの、動きは少なくともどっしりと胸に迫るセリフが、舞台の迫力を支えているといっていい。

    舞台転換の際の長さと物音が気になったが、休憩を挟んで3時間。長さを感じさせない舞台だった。

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    2021/10/08 21:16

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