実演鑑賞
満足度★★★★
桐谷健太の詩情と影のあるヤクザ松永役が光った。冒頭から詩のような、松永の手記が劇中リフレインされる。「夜に隠れ、朝を恐れ、昼を恥じて…」「故郷が思い出される…コンコンと咳をする母、妹の上着の赤…、」。戦場から復員しても居場所を失い、闇屋のヤクザとして勢力を伸ばしながらも、そんな生き方を恥じている純情さと、帰りたくても帰れない望郷の思い。原作の映画には松永の過去は何も描かれなかった。今回の舞台は、飲み屋の女将を松永の幼馴染に変えて、松永の人物像を陰影あるものに膨らました。
それ以外、映画のストーリーはほぼ変えず、黒澤映画へのリスペクトが感じられた。女子高生やヤクザの親父も早くだがきちんと出てきて、いいアクセントになる。泥水を飲む子供を真田が叱るシーンも割愛していなかった。主要キャストは豪華で、それぞれに存在感がある。昔の女ミヨ(田畑智子)を連れ戻しに来た岡田(高嶋政宏)に、ミヨが自ら出ていって拒み、医者の真田(高橋克典)と松永が土下座して、帰ってくれと懇願する場面。映画だと、ミヨは家の奥に隠れたままで、真田だけが対応するのだが、演劇としてはバアや(梅沢昌代)まで出て、迫力あるシーンを作っていた。
回り舞台にセットを作って、真田医院、ダンスホール、闇市、情婦の部屋等々を効果的に転換。このセットも良くできていた。床の傾斜をつけることで、客席から見て、人物の上下の位置で互いの関係がわかりやすくなると、演出の三池崇史がプログラムで喋っていた。中央上部に渡り廊下のような橋があって、回り舞台の上面を俯瞰的に使っているのも感心した。上面の奥の傾斜が、最後に物干し場になる。