実演鑑賞
満足度★★★★
文学座版「熱海殺人事件」。諸々発見あり。
稲葉賀恵演出の才気が冴え渡る舞台、とは印象の一面で、冒頭から暫くは文学座もその範疇である新劇の役作り、物言いが気になってどうにも入って行けなかった。それでも成行きを追わせる緊迫があり、土台の無い所から楼閣を作り出して「あり得ない」取調室での台詞の応酬を一つの確固たる世界を信じさせるつかこうへい戯曲は、やはり役者に力技を要求するものであったが、文学座俳優の演技と稲葉演出共々に2021年初秋の文学座アトリエ版「熱海殺人事件」が生まれたのは確かのように思う。
「モジョミキボー」のコンビの片割れ石橋徹郎の木村伝兵衛役以下、計4名の俳優の持ち味が十二分に目に焼き付いた。
「熱海」には幾つものバージョンがあるようだが、ラストで伝兵衛が一人で長演説をやったのには驚いた。時代を感じさせるが、真摯に純粋さを求める心から発する言葉は作者の声そのものにも聞こえる。