実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2021/09/09 (木) 19:00
戦前から「うさぎ島」と呼ばれていたわけでない。しかし、旧陸軍の秘密毒ガス兵器製造工場があった当時、ウサギは実験動物として使われていたということだ。今回のPカンパニー「罪と罰シリーズ」の舞台は、いまは「うさぎ島」として世界的観光名所になっている大久野島の物語だ。
戦争の惨劇を伝える史実では、大久野島の話は知られているので舞台を見る前は脚本に苦労したかもしれない、と勝手に思っていた。しかし、冒頭のシーンで結構、度肝を抜かれる。一見、下級民を見下している上流階級のお食事の様子だと思ったら、実はこれ、島に住む実験動物のウサギの一家であった。舞台はこのウサギ一家、特に姉妹のライフストーリーを軸に展開される。実験の対象にされる、すなわち命を実験に捧げるという立場から客席は島の毒ガス兵器開発を見るので、戦禍の犠牲になる立場からこの島の歴史を洞察することができる。脚本の勝利と言っていい。
演出も印象的である。このウサギ姉妹、思春期のお年頃で箸が転んでも大笑いという明るさで始まっていく。物語が進むにつれ、この姉妹に断裂が走る。毒ガス兵器製造を真正面から取り上げていないのに、この戦争さえなければ、当時から今のような平和なうさぎ島なのにと痛切に感じられる仕掛けだ。
ラストシーンでその思いは現実の姿となって登場する。ネタバレになるのでこれ以上は控えるが、ここも脚本の妙だろう。島の土、そして周囲の美しい海に刻まれた「毒」を私たちは語り継いでいかねばならない。そういう意味で、タイトルにある霧が晴れるのはまだまだ先なのである。
2時間というコンパクトにまとめられた作品。秀作だと思う。戦争を忘れてはならないと思っている人は、この舞台、見ないと損するかも。