チーチコフ 公演情報 劇団俳小「チーチコフ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ゴーゴリの未完の長編、『死せる魂』。完成していた第二部を作者自ら焼き捨て書き直したせいで不統一な作品に。更にその後、文学を棄てる事を決意し書き直した第二部を再び暖炉で焼き捨てる。そして十日後、自ら断食にて没す。後に残された原稿の断片から遺作として不完全な第二部が刊行された。全三部の作品だった為、ゴーゴリがどんな作品を構想していたのかは今や誰にも判らない。

    舞台は十九世紀ロシア、当時の地主は次の国勢調査まで死亡した農奴(その土地の領主に保有された農民)の人頭税をも支払わなければならなかった。元小役人チーチコフは死んだ農奴の所有権をただ同然に譲り受け、名義上は大勢の農奴を抱えた地主に成り済ますことを企む。登記したその農奴を担保に銀行から大金を借り入れ、国外逃亡することが目的。面識を得たロシアの方方の地主に交渉に出向くのだが···。

    チーチコフ役大川原直太氏が実にいい味。高橋幸宏と泉谷しげるを足したような風貌で知性と茶目っ気が同居している。現実感のある、地に足の付いた悪党が演れる逸材。人が変わったように老婆を非道い剣幕で脅しつけるシーンが印象的。
    その敵役となるノズドリョフ役手塚耕一氏も負けてはいない。佐藤二朗とケンドーコバヤシを足したような雰囲気で破天荒型の嫌な毒舌キャラ。それなのにどこかしらユーモラスな存在に創出。出て来ると場が盛り上がる。

    演出の意図なのか、後半から徐々に『マクベス』を連想させる断片が。
    チーチコフに付き従う御者セリファン役左京翔也氏の獣じみたキャラは異界の荒れ野を馬車で疾走している気分にさせる。
    チーチコフの転落の切っ掛けともなる老婆、コローボチカ役吉田恭子さんは欲深い弱者を好演。
    コーラス・ガールの三人組、西本さおりさん、覚田すみれさん(美巨乳!)、小池のぞみさんがエロエロで観客を煽り続ける。時には馬車馬になり、チーチコフを乗せてロシアの湿原を駆け巡る。シルエットのみで演じられるセクシーなオープニングは『11PM』的で素晴らしい。この三人の魔女が「チーチコフ!」「チーチコフ?」と呼び掛け続けるのがリズムとなってずっと耳に残る。
    ずっと袖で生ピアノを演奏し続ける音楽担当の上田亨氏。曲がキャッチーで活き活きとこの世界の住民を鼓舞し地獄巡りの寓話に鮮やかな色を着ける。

    ネタバレBOX

    体調のせいかちょこちょこウトウトしてしまって、作品を充分に味わい尽くせなかったのが残念。全然つまらない訳ではないのだが、もっとチーチコフのピカレスク・ロマンに観客の気持ちを乗っけて欲しかった気も。チーチコフを応援する娼婦三人組の気分で観たかった作品。本編進行を見守る彼女達のいちいち大袈裟なリアクションが痛快。

    ひたすら死人を買い集めるチーチコフを地主達は奇異な目で眺める。幾万の死者の登記簿を満足気に眺めるチーチコフ。御者セリファンが訊ねる。「その中にはあっしの名前もあるんでありやしょ?」ニヤリとチーチコフ、「勿論だ!」
    幾万もの死者の農奴を引き連れて、地獄巡りの旅は続いていく。

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    2021/09/04 22:53

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