音楽劇「あらしのよるに」 公演情報 日生劇場「音楽劇「あらしのよるに」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    第一幕55分休憩20分第二幕40分。
    肉食の狼と草食の山羊による種族を越えた友情物語。昔映画館で劇場アニメを観ているのだが、全くと言っていい程記憶に残っていない。
    主演のヤギのメイ役は北浦愛(あゆ)さん。トラウマ映画「誰も知らない」の長女役!(あの映画を観てからアポロチョコのイメージが変わった人も多いのでは。)
    W主演のオオカミのガブ役は渡部豪太氏、多才。
    強面オオカミでやたら格好良い、ギロ役大森博史氏とバリー役島田惇平氏が目を惹く。
    音楽は自ら生演奏する鈴木光介氏、奏でる楽曲が素晴らしい。歌詞はよく聴き取れなかったが自然の精霊役女性三人組の生歌も名曲揃い。メイとガブが眠りに就いた時の美しい歌が印象に残る。
    嵐や風や雨、吹雪や季節の移ろいを仮面を着けた者達の舞踏で表現。沢山のヒラヒラした布をフリンジ状にはためかせた衣装で、精霊達が舞台狭しと舞い踊る。雪の表現では、通常だと天井から紙吹雪がしんしんと舞い落ちるものだが、今回は精霊の役者達が走り廻り手掴みで投げ付けていく。猛吹雪のその効果も悪くない。
    ただ、一幕は淡々として退屈。メイとガブがどうしてそんなにも互いの絆を特別に思ったのかが伝わらない。

    嵐の夜に互いの姿が見えぬまま仲良くなった山羊と狼。翌日待ち合わせ場所で互いが敵対する種族であることを知るも、皆に内緒で特別な友達関係を続ける。だがその関係がどちらの仲間内からもバレてしまい、スパイ活動をするように強要されるのだが···。

    ネタバレBOX

    互いの社会的立ち位置に追い詰められたメイとガブ。メイは「私を殺す選択肢もあるよ」と言い、ガブは「そんなことができる訳がない」と返す。全てを捨てて谷川に飛び込む二匹。ここで第一幕は終わる。駆け落ちなのか、心中なのか、余りにも純粋で美しい。
    このシーンから第二幕ラストまで、素晴らしい出来。これが手塚治虫や白土三平だったらハッピーエンドには成り得ない話。メイが喰われるか、どちらも死んでいるだろう。(原作のラストでは二匹共死ぬらしい。)

    ディズニーや手塚のアニミズムの素晴らしさを再確認するような舞台。第二幕、冬の雪山の洞穴でにっちもさっちもいかなくなった二匹。何も食べられるものが無く、飢えて死を待つばかり。メイがガブに「このまま二匹とも死ぬ位なら本能に従って自分を殺して食べてくれ」と頼む。ガブはその要求を呑む振りをして外に出、裏切り者の抹殺にやって来た元仲間の狼共と殺し合う。「カムイ外伝」だ。

    「法華経」の昔から、人は自己犠牲の物語に心を震わせる。
    原作版「ジャングル大帝」のラストがまさにそれで、猛吹雪の雪山で瀕死のヒゲオヤジを救う為、レオはわざと狂った振りをして殺される。ヒゲオヤジはレオの肉を喰らい、毛皮を被って何とか生き延びるのだった。

    「真ん丸い満月を見ていると嫌な事なんか全て忘れてしまえる」とガブがこっそり教え、二匹は並んでお月様を眺める。矛盾と謎に充ちた残酷な自然の理の中で、それは余りにも美しい光景だった。

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    2021/08/29 19:12

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