反応工程 公演情報 新国立劇場「反応工程」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    何の情報も入れずタイトルが『蟹工船』っぽいなと去年チケットを購入も、コロナで中止&返金。何となく気にはなっていて今年到頭観れる運びとなった。宮本研の戦後三部作(もしくは戦後史四部作)の一本で代表作の一つらしい。全キャストをオーディションで選んだ贅沢なキャスティングなだけに、一人ひとりのルックスが役そのもの。新国立劇場と云えば豪華で緻密な舞台美術、他の劇団が観たら涎が出そうだ。

    終戦十日前の北九州の軍需工場。動員学徒として働いている主人公・田宮(久保田響介氏)は社会主義思想を持つ先輩から『帝国主義論 資本主義最高の段階としての帝国主義』(レーニン著)を借り、隠れて読み耽っている。開幕からすぐにガチガチのそっち系の話だったので思わず笑いそうになった。戦後の民主主義啓蒙白黒映画を観ているような趣き。そこではロケット砲の推進薬を作り出す為、薬品の“反応工程”の実証実験を行っている。

    役者は皆文句なしに素晴らしい。
    亀田興毅を思わせるやんちゃキャラを演ずる八頭司悠友(やとうじゆうすけ)氏。酒宴のシーンの密度の濃さ、日の丸褌姿に唄って飲んで喰らって大暴れ。ああこういう奴いるなあと誰もが心当たりのある典型的な日本人を大熱演。凄い腕前。
    見張(防空監視哨)で勤務する、田宮に想いを寄せる少女(天野はなさん)。別の学徒工員に渡された恋文を、「これ···」とおずおずと返すシーンがとても良かった。『イーハトーボの劇列車』で宮沢賢治の妹役だった記憶がある。儚い印象を人に与える女優。
    ベテラン責任工役、有福正志氏の全身から立ち昇る実在性。何も言わずただそこにいるだけで工場の積み重ねてきた何十年もの日々を感じさせる佇まい。名優である。
    ヒール役の憲兵(神保良介氏)は村上和成と嶋田久作を足した感じでグロテスクな凄味。が、アクションの演出はイマイチでもっさりし過ぎ、わざとらしくて見ていられない。狙いなのだろうがもうちょっと何とかなったのでは?

    第一幕85分休憩20分第二幕65分。
    終幕の仕方がヌーヴェルヴァーグ風で胸に焼き付く。

    ネタバレBOX

    名作とされているが自分的には第二幕がキツかった。登場人物は全て書き割りで、生きている人間は見当たらない。作者の構想する展開に都合のいい行動を取るだけ。
    主人公・田宮の怒りは何故か気の弱そうな教師にだけ徹底的に向けられ、観客には共感し難い。中途半端に大人びていて言動行動にも感情移入し辛い。(まあそれこそがリアルな人物造形ではあるのだが。)
    登場人物は開幕から閉幕までほぼ何をする訳でもなく、時間の経過で戦争が終わっていく。
    「誰々が死んだよ」「何々が起こったよ」と工場にいる田宮に逐一報告が入るのを聴かされる観客。何となく徴兵逃れの学生の自殺や空襲で数名が死んだことを知る。

    唯一田宮と見張で勤務する少女の仄かな恋だけが記憶に残る。
    田宮が破り捨てた赤紙を拾い、「逃げちゃ駄目だ」と押し付ける少女。空襲が続き激しい機銃音、爆撃音、意を決し外に出ようとする田宮を、今度は「行かないで」と強く抱きしめる。工場の壁に銃痕のような穴が無数に開き(照明で表現)、到頭灰色の壁が開かれ二人は目映い光に包まれる。真っ白な光の中、少女は階段を昇り二階へと去ってゆく。

    それから七ヶ月後、戦争も終わり、行方をくらましていた田宮は皆に会いに工場に戻って来る。少女の消息をそれとなく聞く。「あんたがいなくなった次の日に見張が直撃弾を喰らってあの娘は死んだよ。」
    田宮と観客が同時に思い起こすのはあの日強く抱きしめてくれた少女の姿で、それは光の中に溶けて消えてゆく。

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    2021/07/16 01:25

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