一九一一年 公演情報 劇団チョコレートケーキ「一九一一年」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    深編笠に手縄の死刑囚達が曳かれてゆく。その数、十二人。不吉で邪悪なモノクロのヴィジョン、明治末期の物語。
    舞台上には机と椅子を無作為に五段に重ねた可動式の巨大なオブジェ、奥から手前にゴロゴロと詰め寄ってくる圧迫感。象徴するのは国家か権力か、それとも自ら無自覚に支配され続けている共同幻想か。
    幸徳秋水の大逆事件は知識としてだけ知っていた。実際は国家権力がでっち上げた不満分子の粛清に他ならない。殆ど何もしていない人間達を捕えて、拷問の末全員死刑。不敬な思想への見せしめとしてだけ。

    当時、刑法73条(大逆罪)〈天皇家に危害を加える、若しくは企むこと=死刑〉と云う法律があった。
    狙われたのは幸徳秋水、権力者のスキャンダルをすっぱ抜く恐れ知らずのジャーナリストで、田中正造の直訴状の原文まで書いていた。
    主人公は西尾友樹氏演ずる予審判事。明治天皇暗殺計画の首謀者として逮捕された管野須賀子(堀奈津美さん)と対峙する。管野須賀子は幸徳秋水の内縁の妻であった。体裁だけ先進国を真似た疑似司法国家の傀儡として、主人公のアイデンティティーはズタズタになる。予め全員死刑の決まった、仕組まれた法廷で主人公に果たして何が出来るのであろうか?
    そしてあれから110年、あの日管野須賀子の思い描いた日本になっているのだろうか?

    ネタバレBOX

    中盤、単調な展開に「今回はイマイチだな」と思っていたが、終盤怒涛の名シーンが待っている。
    死刑判決後、いよいよ登場した幸徳秋水(深編笠で顔は見えない)の雄叫び。呼応した無実の死刑囚達の無政府主義宣言。「お前達、生きろよ!死ぬんじゃない!この国の革命を見届けろ!」
    手縄のままジャングルジムのようなオブジェによじ登り叫ぶ面々。このオブジェの意味が反転する瞬間だ。ただ抑圧する恐怖する装置が革命の狼煙を上げる象徴にもなりうる事実。

    最後の奥の手として判事全員の連名での恩赦を嘆願しようとする主人公。泣きながら土下座し、みっともなく皆にすがる。冷ややかな空気の中、今迄主人公を散々馬鹿にし、暴力で無実の容疑者を虐め抜いてきた検事(島田雅之氏)がそれに呼応して一緒に土下座、「どうか命だけは助けて上げて下さい」と。あっと驚く名シーン。そこにいる皆が狂った司法に耐え切れず否を唱える。けれども、現実は何も動かせなかった。

    結局、日本に革命なんて起きなかった。アメリカに暴力で屈服して占領されただけ。(明治維新も同様)。共産主義の末路も皆知っている。ソ連や東欧や北朝鮮や中国の結末も。幸徳秋水と管野須賀子が今生きていたら何を考えただろうか?何をしようとしただろうか?

    もう一つ付け加えるとしたら、主人公の実生活の描写。日々を生きている生活感が見えたらもっとこの空間に手触りが感じられたのでは。

    0

    2021/07/11 19:38

    1

    0

このページのQRコードです。

拡大