実演鑑賞
満足度★★★★★
疲れた体で観たので(寝なかったが)もう一度観て感想を述べたかったが願い叶わず。
「こだわり過ぎ」が標準である庭劇団の、こだわりゆえの逸脱度(演劇的常識からの)はあの「蛸入道」と同レベル。ただしこちらには一応演劇的ストーリーがある。
もっとも点が幾つか配される程度のストーリーで、大きな隙間を埋めるのが「リアル」、これである。
劇場に入ると「この町」の空間に足を踏み込む感覚をまず味わい、度肝を抜かれる(美術=稲田美智子)。最前列の席の足下にまで「この町」の地面が及び、両サイドの壁もくすんだ色で舞台の色調に馴染んでいる。ステージと客席の境界で「世界」が区切られた感がない(客席とステージの境界が絶妙に処理されるのがスズナリ)。
事前に詳らかでなかったのがこの町に住む多国籍な人々の登場。フィリピン人、台湾人、南アジア人(インドかパキスタン)が商売の町の風景を彩る。日本人俳優が扮するのはランドリー(超レトロな)のオーナー(安藤玉恵)、カラオケパブの女将と常連客女性(蘭妖子・島田桃依)、風俗の従業員らしき初老の男(金子清文)、フィリピンパブのオーナー(緒方晋)、看板持ち(タニノクロウ)といった面々。ストーリーの主体ではなく、風景を構成する一部として存在する。
舞台装置が具現する「経年」のディテイルは驚嘆物だが、この場所にはたとえどういう形であれ、生活があり、否定し得ない人生が実在する事実が静かに迫ってくる。