夜への長い旅路 公演情報 Bunkamura「夜への長い旅路」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    家族4人の誰もが精神を病んだ、どこか壊れている。前半の幕では「あのとき」とか、母親に何かがあるとか、婉曲な言い回しで、この家族に何があるのかわからない。しかし、言葉の端々に何かがありそうな不穏な感じが、内面の緊張をずっと持続して、大変密度が濃い。母親役の大竹しのぶが、高い声で、健気に振る舞っている。が、仮面を脱いで、時折低いズシッと響く声で「みんな過去から逃れようとしている。でも人生はそんなこと許さない」などと、怖いことを言うと迫力がある。

    後半は、隠れていた家族の実像がさらけだされ、どうしてそうなったかの、生い立ちや、過去の夢を語る、語る、語る。いずれもすごい長台詞。聞き手はいるものの、あまり口を挟まないので、ほとんど独白に近い。シェイクスピア俳優だった父親に捧げるかのような、シェイクスピアばりの(それ以上の)長台詞。これだけの長台詞で客席を引き込む、演出、俳優陣のリアリティーがすごい。一箇所、リアリズムという言葉が、次男アンドレイのセリフで出てくる。パンフで翻訳者が書いているが、他のセリフからは浮いた、特別な感じが聞いていてもする。これは意味が深い。

    この悲惨な家族のそれぞれの姿が、ほぼ、作者のユージン・オニールの家族そのままというのだからすごい。3時間半、とくに後半が110分と長いのだが、全く時間を感じなかった。自分のダメさがわかっていて反省もするのに、反省した次の瞬間、同じ過ちを繰り返す。わかっていてもやめられない、自分に絶望する一方、そうなる自分に開き直る人間の悲しさがひしひしと迫る。すごい芝居である。

    ネタバレBOX

    母親メアリーが夫の巡業についている間に、自宅ではしかにかかっていた長男ジェイムズが赤ん坊の部屋に入ったために(あれほど、麻疹が写ったら赤ちゃんが死んじゃうと言っていたのに)、次男ユージンは死んだ。父親は飲んだくれのくせに、家族には金を惜しむどうしようもないケチだった。長男は酒と女に溺れて、働こうともしない、次男(作者本人がモデル)は、大学を中退し、自殺未遂を起こし、今度は結核にかかって療養所に行こうとしている。これが全部、作者の家族の実話とはすごい。芝居は私小説のようにはかけないし、書かないものなのだが、ココまで赤裸々に、事実をそのまま書いて、これだけ観客をひきこむ緊密な戯曲を書くとは、すごい。
    曖昧宿で、デブのヴィクトリアに同情して、抱きたくもない女を結局は抱いたという話も、今は表立ってはかけないような、差別的な話。でも今でも本音では変わらない。この毒がいい。

    ラストは、麻薬で正気を失った母親がオフィーリアの狂気と重ねられ、舞台の空中でずっともゃモヤ動いていた白いレースの塊の意味が初めて分かる。

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    2021/06/10 23:35

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