実演鑑賞
満足度★★★
国籍、文化、言葉そして障碍も違うアーティスト達が、シェイクスピアの戯曲「テンペスト」を大胆に構成して描くパフォーマンス劇。新型コロナウィルス感染症のパンデミック状況における国際共同制作の試み。
公演には3つの観点がある、と思う。第1は国境を越えた障碍者による上演、第2にコロナ禍(他疫病や自然災害等も含む)にあって、それがテンペスト=嵐を乗り越えるという比喩、第3に嵐そのものが人生で、人間誰しもその中で生きている。嵐の大小の違いはあるが、それでも障碍者であろうと健常者であろうと関係なく生きること。
障碍者による公演、その上演までの努力・困難等は想像に難くないし、意義なりもそれなりに理解できる。しかし公演を観せるということは、役者が障碍者、健常者に関係なく観客に分かるようにようにすべき。タイトルが「テンペスト」であり、その上演であることは周知のこと。そしてホワイエには舞台装置の模型が置かれ、その横に説明板がある。さらに場内でも舞台装置等に関する説明が流れる。だから上演までには稽古-劇中劇であるということは分かる。
しかし「テンペスト」という物語(粗筋)の説明がないことから、観客はこの物語を知っているという前提で始まる。物語を知っている人と初めて「テンペスト」という劇を観る人とでは、題材になっている戯曲に対する面白さ醍醐味を味わう上で差がある。
公演の謳い文句の一節には「『テンペスト』では、障碍のあるアーティスト達が国を超え集う伝え合うことの難しさとだからこそ得る喜びを見つけ、未来へ続く景色に到達するために」とある。この戯曲を初めてみる観客のためには、稽古という劇中劇であっても、「テンペスト」という物語そのものを構築(構成)していく必要があると思うが…。だからこそラストのカーテンコールのシーンが活きてくる。
(上演時間1時間45分)