実演鑑賞
満足度★★★★★
延期された公演の中でも観たかった一つ。期待は裏切られず大満足。変哲のない夫婦の日常の刹那性と永遠性。のっけから永山演出の読み解きに感覚動員され、松田正隆作品である事を忘れていたが正に松田作品。
二人芝居の出演者の一人は2018年永山氏による東京レジデンス作品「島」にも出演していた日高氏、そして“我らが”多田香織女史(KAKUTA)。子のない夫婦の一つの関係の図は、過去に規定されつつ現在に縛られつつたゆたう。何気ない生活の断面が、黒い舞台の中に儚く切なく映えて美しい。
日常の場面をかたどる俳優の演技は、陥りがちな定型にハマらず、生き生きと時間は過ぎて行く。俳優両氏に敬意を表する。
さて永山氏の演出には抽象表現がさりげなく多用されるが、読み解きが追い付かない事がままある(「島」でもその経験をした)。本作のラストも何か大切な事が示唆されていそうであったが、「何」であるかは判らず。ただしこの舞台の醍醐味はその時間経過にあり、謎解きの比重は高くなく結末は何にも置き換えられる(解釈を完全に観客に委ねている)感も。
特段の「幸福」エピソードもないこの夫婦を、作者は一つの理想として描いたのだろうか、と永山演出のこの舞台から想像した。