実演鑑賞
満足度★★★★
草彅剛を軸にしたコント集。大阪のCMクリエーターの二人の作・演出で、東京の観客は見慣れていない面白さだ。東京にもナンセンスやコメディはあるが、ケラとも違うし、三谷とは異質だ。今までの演劇の約束ごとを無視しているような、うまく使っているような異色の舞台になった。
「わからない言葉」は生活規律のだらしのない夫(羽場)と几帳面な妻(小西)の中年夫婦に飼われている犬・ハッピーを草薙が演じる。犬や外国人を含めた現代の市民生活で、言葉のコミュニケーションの可能性をめぐるコントである。
約束をすっかり忘れていた夫の中央アジアの友人(畠中)がガールフレンド(小林)とともにやってくる。かつてその国で働いていたのに、夫はすっかりその国の言葉を忘れている。
犬と人間の間に、また人間と人間同士の間に、どちらが言葉が通じるか、音楽なら通じるのか、といった下世話でもあり、広げられる話題でもある素材をもとにナンセンスなドタバタが展開する。
犬にわかる言葉はゴハンとサンポ。中央アジアの国の言葉はもう完全に分からない。友人が連れてきたガールフレンドの衣装は異国風で、言葉も中央アジアの言葉を話すのだが、やがて、実は日本人で通訳だということが分かる。こういう仕掛けが効果を上げている。
これだけよく出来たコントにはなかなかお目にかからない。
それは二話の「笑って忘れて」も同じで、こちらはリモートで働いている夫〈草薙〉と妻(小西)の物語である。記憶喪失症にかかった妻の取り違え劇(であることがなかなかわからないように舞台が進行する)が、結局は夫婦愛の物語になっていく。一話とは違うテイストのコントで、夫々1時間。間に休憩がある。
どちらのコントも、笑劇らしい無理な設定をしているのだが、本がよく出来ていて、素直に楽しめてしまう。俳優も、関西にありがちはオーバーな演技が臭くなる一歩前で寸止めしていて、そのへんの呼吸が揃っているのもうまい。草薙の犬は犬らしいところを形では全く見せていないのに、犬の役になっている。ほかのベテランの配役もハマっていて、特筆するとすれば小林きな子。二話の会社のドジな同僚もうまいものだ。あまり東京では見ないがはじけている。初演は二年目に京都で上演していて、その時の羽場の役は池田成志だった由だが、羽場は池田とは別の面白さを出していると思う。
作・演出の演劇経験はサラリーマン劇団と紹介されているので、ふと気が付いたのは、80年代後半に旗揚げした喇叭屋である。主宰した鈴木聰も確か電通の腕利きの宣伝マンで、旗揚げしたときは確か「サラリーマン新劇」といっていた。作風も内容も違うが、今の生活者にエンタテイメントとしての芝居を、広告という無名の場所から発言してきたことでは通底するものを感じる。その精神が、舞台に生きている。
神奈川なので、土曜の夜の満席の客席の劇場は東京のぎすぎすした自粛劇場とは違う和やかさがあった。さらに言えば、、コロナ禍でジャニーズタレントのファンクラブのリピーターに頼った大劇場の公演を数多く見たが、この公演は唯一そういう勘定ずくをバランスシートの片側に置かないでも見られた愉快な公演でもあった。