実演鑑賞
満足度★
今この芝居をなぜ30公演も打とうとするのか理解できない。最初の十公演ばかりは突然のコロナ宣言延期で止めたようだが、それにしても、大劇場で30公演は東宝松竹でも逡巡するだろう。中身はアニメの劇化で2・5ディメンションの企画の発想と似ている。クリスマスストーリーのような物語でその時期に家族で見るにはいいかもしれないが、梅雨時に見るのはいかにも時節外れ。アニメでは面白そうな話でも芝居に良いとは言えない。それに物語の進展もアニメなら物語の偶然や飛躍、感情のアップがいいだろうが、芝居では無理やりクライマックスの連続で賑やかなばかりで落ち着かない。俳優はジャニーズの松岡昌宏が女形でつとめ、相手役はマキタスポーツに夏子。キャスティングの狙いも見えず、演劇的には詰まっていかないし、何か新しい趣向があるかと言えば、何もない。
去年の年末企画だったのかとも思うが、アニメの成功作を舞台に移すのは簡単ではない。来年「千と千尋」をミュージカルにするという東宝などはものすごく慎重だ。新国の企画は人気のあるアニメとジャニーズタレントに乗ろうというだけではないか。早い話、この上演には、「斬られの仙太」(これはなかなか良かったが)とこの作品、それにこの後の井上ひさしの推理劇「キネマの天地」の三作を並べて、今年の柱として「人を思う力」というシリーズタイトルがついているが、どこに共通点があると思っているのか聞かせてほしい。全く別の作品ではないか。きっと今の政府に倣って、「しっかり適切に考慮した結果」などと言いそうだが、そういういい加減さは同じ国立でも学ばないでほしいものだ。
客は正直、入りは二割そこそこ(18日夜)、久しぶりに見るガラガラの入りは客の正直な反響である。なんだかどこまでも無駄な税金興業と言った感じだが、新国は誰もその責任を取ることもない不思議な文化庁興行部なのだ。