実演鑑賞
満足度★★★★
野田秀樹の旧作を、今の新しい演出家が手がける。クリエのKERACROSSと同じような試みだ。この二人、方向は全く違うが、間違いなく現代の日本演劇をリードする劇作家である。共通するのは、彼らが登場するまで、日本演劇を蔽っていたリアリズム演劇からは遠い演劇世界を作って成功したことだ(ほんとにすごいと思う)。その野田も、65歳、ケラも間もなく60歳。両者とも多作という事もあって、ひょっとして、自分の戯曲、後世に残るのかな?と気になったのか、いや、そんな下世話な勘繰りでなくとも、疾走してきた足跡を若い世代の舞台で再見したい気分にはなる年齢だ。
初演の時、野田・蜷川の二人の演出競演になった旧作を、コロナで世間がお休みになっているような時期に世代も作風も違う熊林がどうするか見てみようというのは、なかなかいい企画だ。クリエも満席だったがこちらも満席。熊林演出は、どこかでふざけなければ気が済まない野田とは違うクールな舞台作りだった。
野田作品は、東西の古典から現代の流行や政治まで、さまざまな人間事象の引用に次ぐ引用で独特の世界を作っていく。「パンドラの鐘」はタイトルにも、ギリシャ神話のパンドラの箱を開くと、善悪さまざまの人間の業が飛び出してくるという物語に、出てくるものは鐘で、それが長崎型の原爆だ、と言う寓意を重ねている。熊林演出は、この作品の寓意性を生かして、何かときな臭い世界情勢を映す時事性の強い舞台になった。具体的には、事実の背景としては先の戦争と原爆投下我描かれているだけなのに、時代をこえて観客に訴える力が戯曲にあることを証明して見せたのだ。
Kera Crossに続いて、この上演も日本演劇の里程標になった。