映像鑑賞
満足度★★★★
配信で鑑賞。
1979年に大阪で実際にあった銀行人質立て籠り事件の実況再現的な劇。同作者の作品は昨年「Crime 2」での短編を(やはり配信で)観て2度目。犯罪事件をリアルタイムに進行する形で描く点で共通する。
ただし今作の舞台は修羅場である銀行窓口のあるフロア(1階)ではなくその上、2階に潜入した警察が臨時で設置した対策本部。ここで現場指揮に当る警視正(村上航)や、その部下、米国帰りの若い警視(犯罪心理に強い)、本部から来たというベテラン刑事、交通課から異動したばかりの女性警官が、時折階下で響く銃声と不気味な静寂の中で次の策を考える。外部からは犯人から遣わされた男性行員、犯人の元愛人、一階から命からがら逃れて来た元警官という民間人(老人)が訪れ、現場を見る事のできない対策本部を揺さぶる。
結局のところ、最終手段=突入をするか否かが焦点になる。だがその対立点はベテラン刑事の登場からあり、現場指揮を本部から任されたと言う彼に対し、警視正の方も自分も本部の指示で指揮を執っていると主張するのだが、一階では既に警官二名、行員二名が死亡との報告が上がっており、これで突入しない選択肢はないとベテランが主張するのに対し、警視正はこれに強く反対する。
銀行一階の見取り図が届けられ、突入方法が練られるが、そこへ一階から使者が来る。犯人の言伝を告げに来た男性銀行員は何もするなと訴える。米国帰りは彼は犯人を絶対視する心理規制に嵌まっていると分析、因みにこの行員はこの後犯人から借りていた金を返済して来い(無論銀行から奪った金)との命を受け「外」へ出るが、彼は逃げずに銀行へ戻って来る。台詞による説明は無いが彼は間近で犯人に接し、犯人なりのいきさつがあり、それ故今は犯人に従うのが正しいと判断していると判る。このあたりから犯人の「人間像」が関心の領域に入って来る。元恋人の証言、そして漸く応じた犯人との会話(一階との電話)で垣間見せたかつて人と情を交わした生活の感触。だが無言の対応のあと又銃声が響く。「突入」への強硬論は最初、米国帰りが開陳した犯罪者心理「出口を失った者は自棄になる」で慎重論に落ち着く。次は一人目の訪問者の報告を受けてであったが、彼に聞いた犯人の位置を見取り図上で確認し実行された所、犯人が作った人の盾で頓挫する。
警視正は犯人の来歴を記した資料を繙いているが、老人は必死の形相で犯人の非人間性を訴え、警視正の態度に疑問を投げ掛ける。万策尽きたと断念した警視正は突入、と指示するが「ただし生きたまま確保!」と付け加える。結果は推して知るべし、人質解放。特設本部が片付けられ、ガランとした空間で警視正は「彼」が生きていた時間の感触をなぞるように(冒頭そうしていたように)床に耳を当て、再度「生きたまま確保」と繰り返す。
銃社会アメリカでは何かには当然、等と、やがて日本が「個人主義社会として正常に発展する」事を前提に語られる事があるが、アメリカは異常であると、思い切る時ではないか、との問題意識と共に引き出しにしまった。