カメレオンズ・リップ【5月2日~4日大阪公演中止】 公演情報 KERA CROSS 「カメレオンズ・リップ【5月2日~4日大阪公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    幕が開くと、アメリカの田舎の山中の一軒家、謎の死を遂げた妹そっくりの使用人(生駒里奈)と暮らす主人公ルーファス(松下洸平)が、亡き妹は嘘が大好き、真実の中に嘘を交えてこそ、嘘の名人なのだと話しはじめる、生のピアノとレコードを使った嘘とホントのギャグ、観客はたちまち、ケラの世界に引き込まれる。
    ジャニーズ客がいなくても、かつてのようにさまざまな世代で埋まり満席(コロナ席なし)になった客席が、筋もよく掴めないナンセンス劇に笑っている。何だか懐かしい舞台を観ているような感じ。思い起こせば、コロナ騒ぎのこの一年、舞台の上も、観客も一体になって芝居に心を開く安らぎのある舞台には出会わなかったような気がする。
    ケラリーノ・サンドロヴィッチの初期の作品をいま現役の若い演出者が再演するKera Crossシリーズの第三弾。今回の演出者は河原雅彦である。
    今回の上演はケラの舞台の経験のほとんどない俳優たちが演じながら、まるで、ナイロン100℃の公演のドッペルゲンガーのようにケラの乾いたナンセンスの世界が作れたという発見が最大の見どころだろう。初参加で快演した岡本健一がパンフレットで言っているように「登場人物がそれぞれの事情を抱え自分を偽りながら現実に対して必死にあがく哀歓漂うドラマ」(まとめ方、うまい!!)を、この家に集まってくる様々な人々、亡き姉の夫(岡本健一)、元使用人(ファーストサマーウイカ)、近所に住む眼科医師(森準人)、姉の友人(野口かおる)、なくしたハンドバッグを取りに来る女社長(シルビアグラフ)近所の退役軍人(坪倉由幸)、がそれぞれに嘘をつき、騙し合い、演じていき、不条理な世界が笑いに包まれていく。
    嘘が事態を混乱させ、破綻してゆくクライムストーリーの筋を追うことはほとんど意味がない。しかし観終わってみれば、ドッペルゲンガーみたいだったこのドラマはやはり、バブル後のケラ本人の作った二十年前のナイロンの世界とは違う。いまの演出家、河原雅彦は不条理なドラマを、俳優にはナイロンの演技を踏襲させているように見えて、どこかすっきり整理している。貼り絵のようなタッチの美術(石原敬)も、井澤一葉の音楽も舞台にマッチしている。
    ケラリーノ・サンドロヴィッチと言う日本演劇界に突然現れた特殊な才能がこれからも長く生き続けられる証明にもなった上演だが、何よりも、この一年とげとげしく冷たかった劇場の空気が、ここでは温かく弾んでいたことを高く評価したい。

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    2021/04/17 18:15

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