実演鑑賞
満足度★★★★
作と演出は別だったっけ、と思ったが同じ人(詩森ろば)であった。観ながら自分の中ではちぐはぐさが気になった。キャスティングはプロデューサー側の意向、そこで演出が頼れる縁故のある役者を配した、と、縁故役者を活かす想像の方が作者としては先行してしまう、結果バランスが崩れた・・等とまた余計な想像が膨らんだ。
全体に台詞が凡庸に留まり、予測を上手く裏切る劇作家の仕事が、舞台上では生かされないという印象で、演出の問題か演技の問題か、と考える。竹下景子がフランス家庭劇で求められるコメディエンヌ風な構えで「役」に深く入らない演技態であるのが最も気になった一つ。震災の影を背負う三人の女(地元の独り身のお婆=キワ、暴力夫から逃げて来た妻=結、東北の親戚に引き取られに行く途中で震災に合った少女=ひより)のマヨイガと名付けられた家と村での心許ない共同生活が、お婆が交信できる事による異界との交流を溶媒として、新たに生きる力を得て行く。このプロセスが持つドラマ性に心を寄せつつも、現実を生き直す「溶媒」としてのファンタジーが、舞台上で写実的に登場してしまう。「存在するが存在しない」という二重性の中に人の精神の力となり得る「物語=ファンタジー」は機能する、とは私の思いであるが、その線で言えばこの異界の存在をどう舞台上に存在させるかが今作の要であった。
冒頭の舞台上でセットしたスライド機による影絵は、竹下女史が孫らに「どんどはれ」で終る東北の昔話を語る背景に使われ、ぐっと期待感の高まる出だしだったが、この小道具的演出は後半、実在の「衣裳(詩森ろば)を着た」河童等の妖怪や、沢則行の(とは後で知った)人形によるダイナミックな戦いの場面といった「実写」が主となり、これが残念感を増す。
鈴木光介氏の生演奏は寸暇もなく殆ど舞台を支えていたという印象だが、唯一河童のテーマ曲だけは高揚をもたらさず、男衆が扮する6、7匹の河童が婆に呼ばれて会食する場面は「異界の時空」との境界を破った意外性がなく「現実の時間」に飲まれて相当きつかった(衣裳をまとった男としか見えない)。河童の歌は3回も歌われ、「河童さんとの食事は楽しかった」と言いながら「かっぱかっぱ~♪」とフレーズを繰り返し「え、歌っすか」と思わずツッコミたくなる(歌は舞台上の象徴的表現でしょ?)。もっと現実的、というと変だが河童が「歌」というものを本当に持っているとしたらどんな歌か、というオファーがもし演出から出されれば鈴木氏ならもっと違う物を提供したはず、と思う。テントンカントン伴奏を河童自身が付けて(鳴り物は持ってないからカラオケ機なんか持参して?)歌ってたと女共は記憶に刻んだの?こういう雑さが私には我慢ならぬ。河童とどのような「交流」があったのかも、舞台上にどう表現するかは難題だったと思うが、クリアしたと言えなかった。
後半展開する異界絡みのメインストーリーは、岬の村にかつて災害と荒廃をもたらした妖怪が、今再び忍び寄っているらしい事をお婆が(東北の主要各河川を担当する河童たちに頼んで)突き止め、東北の妖怪らに応援を募り、決戦の時を迎える、というもの。これは冒頭の昔話と連動しており、岬の「第四の洞穴」に封印された妖怪である白蛇と、これと昔戦って敗れた事で配下となった何とか言う男の精の二者が、敵役になる。
これが象徴するのは災害であり、それによる人の心の荒廃、絶望。三人の女は戦いの前に一度花巻を訪れるのだが、戻ると岬の村は一変していた。疑心暗鬼が支配し、ひよりと親友になった少女も心を閉ざしてしまう。白蛇らの暗躍とお婆は見て取り、到着した妖怪も各所に散るが、「現実」の生活で女三人が別行動となった所へ敵は襲いかかる。結末は「敵の弱点は目」と知ったひより、結が健気に戦い、勝利する。
身を寄せ合って暮らす三人は、花巻から戻って豹変した村を見て驚き、自分らを暖かく迎え入れた村の「現実」を初めて意識する。両親を亡くし孫を亡くした村人らが互いを励まし合い、日々を明るく乗り越える光景が序盤に描写されるが、結とひよりが偽名を騙って公の監視を逃れるのをお婆が助けた縁は、やがて妻を探して訪れた「悪相の男」を村人が(それと頼まれず)体よく追い払った事を契機に「村との縁」に広まっていたが、助けられる身から人を助ける主体へと転換するのが、三人、とくにひよりと結にとっての「戦い」となっている。村人らが抱えているだろう「喪失」によるPTSDは想像するしかなく説明困難なものに違いないが、震災という体験共有が舞台を観る前提となる。白蛇の象徴するものが何であるのか、具体的には判らないが(その一つは無味乾燥な防潮壁建設にあったりするだろうか)。。
そしてこの舞台は東北を回る。作者がこの事を意識し、アトラクションと明るさのある舞台を指向した事が推察されたが、(本人の意図ではなくとも)戯曲の不足を趣向で埋めた印象は自分には強く残ってしまった。