実演鑑賞
満足度★★★★
犯罪は時代を反映する。80年代に転位21を主宰した山崎哲は、世間の注目を集めた猟奇犯罪事件を素材に犯罪に埋め込められた時代の声を次々とドラマにした。久しぶりの椿組での登場である。
この舞台の素材は十五年前の秋田の地方都市で実際にあった児童連続殺害事件である。
舞台では、家族内の無関心、家庭の貧困、地域社会のいじめやネグレクト、など具体的に事件の詳細が明らかにされていくが、さらに、犯罪の中に潜む日本社会に通底する病癖を抉り出そうと試みる。その手法がいわゆる社会科学的事実のドキュメンタリーではなく、演劇的、文学的(詩的と言ってもいいか)表現であるのが、山崎哲の犯罪シリーズのユニークなところである。
例えば、被害者の少女(長峰安奈)が周囲から与えられるわずかな玩具は、母(井上カオリ)がたまたま金を持っていた時に与えられた二百円のテレビキャラクターと、年上の男の子からもらった魚の飾り物なのだが、秋田の象徴である白神から流れ出る川に捨てられた少女は自身が体の中に飼っていると信じている魚となって旅立っていく。そこに彼女の知る唯一の絵本「海のトリトン」が絡んでくる。
客観的な裁判や捜査を枠取りに進む犯罪物語の中に挟まれるこういう現実と少女の間の大きな乖離を示す乾いた短いエピソードが、事件の深層へ繋がっていく。
事件を囲む現実は、すべて男、女と番号でしめされる二十名近い俳優で演じられる。
演出は西沢栄治、多分椿組では初めてであろう。初日を見たが、多くの多様な俳優たちを巧みにさばくだけでなく、暗黒の中から突然フットライトと音響ともに事件の核心人物を登場させるかつての転位21の手法を踏襲する余裕もある。
新旧の作家と演出の顔合わせが成功して、80年代小劇場の空気を今に生かすことになった。休憩なしの二時間。飽きずに見たが、遂にタイトルの「軍手」の意味が分からなかった。