岸辺の亀とクラゲ-jellyfish- 公演情報 ウォーキング・スタッフ「岸辺の亀とクラゲ-jellyfish-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    いかにも今どきありそうな話だが、面白く見ていてもどこか物足りない現代世相劇である。
    物語の主人公は多摩川河口の下町あたりの中学校の女教師(南沢奈央)、ア・ラ・サーティで結婚前提でお泊りを重ねている男性(岡田地平)もいる。その一DKのアパートが舞台である。
    物足りなさをひとつ上げて見ると、この物語、77年のテレビドラマ「岸辺のアルバム」を意識して作っている。前の年に起きた多摩川岸辺の洪水で、あこがれのマイホームを流された家族の物語である。この戯曲は2011年の初演。今回は手を入れての再演だが、五十年も前の世相劇を背景に持っていることが足かせになっている。
    岸辺のアルバムの時代はテレビドラマが最も社会的な影響力もあった時代で、この作者の山田太一をはじめ、向田邦子、橋田寿賀子、倉本聰などのテレビ世相シリーズは家族の生活モラルも支配していた。そのモラルが崩れてしまって、変わりうる新しいモラルも見いだせていない現代では、モラル談義は一言で言うとウザイ、上から目線がうっとおしい。
    現代は、この女教師のように一人生きる社会で、そこでは家族やパートナーですら縛られたくない。この主人公は、ちょっと面白い人物像なのだが、その物語を囲む人間たちが古い。考えて見れば、このカンパニーの主宰、演出の和田憲明も60歳を過ぎている。この演出家はかつて新宿にあったトップスで新鮮な小劇場社会劇を作っていて経験も豊富、演出は手堅い。今回もそこは遺憾なく発揮されているのだが、若い世代を扱うと、上から目線が見えてしまう。
    人物では、一階上に住む年の離れた男女。主人公への絡みは面白いのだが次第にありきたりになっていく。大学時代のサークルの友達、ユニークな万引き女として登場する(この登場の部分はよく出来ていてリアリティがある)がこの折角の人物も今風に生かし切れていない。
    2時間、飽きないで十分面白いのだが、どこか通俗に流れている、そこが丁寧な仕事の割には残念なところである。このカンパニーの再演戯曲の選択はなかなかのもので次回を大いに期待したい。

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    2021/03/09 23:41

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