満足度★★★★
女性による女性の悲しみを描いた70分の中編。タイトルには「朝鮮」が隠されており、慰安婦問題、日本の在日差別がメインテーマである。小学校の校庭の砂場(4スミを吊り上げることの出来る朝鮮のつぎはぎの白い布=ポシャギ=でできている)だけのシンプルな装置。戦争中に同級生だった朝鮮人の少女二人が、アイコ(五嶋佑菜)は戦後帰国の船が沈んで亡霊になり、ノブコ(蒔田祐子)は日本に残って年を重ねていく。同じ砂場で戦後育った日本人の少女三人。この三人が大人になり、それぞれの女性としての苦しみを吐露するところから、がぜん引き込まれる。
幸せな結婚をしているように見えた孝子(武智香織)は、実は子供はまだかと姑にせっつかれたあげく、せっかく妊娠したと思ったら、病院の誤診で子宮切除され、子供が出来なくなていった。姑が、その病院へ行けと言ったのに、今は姑は医療事故に遭ったのは嫁が悪いとせめる。夫は知らん顔である。友人が「訴訟するんでしょ」といっても、「わざと贅沢な病院に行くから、と周りからどういう目で見られるか」と断る。
里子(岡本有紀)は高校生時代にレイプされたことを隠し、建設業の夫を持ち裕福な暮らしをしている。実は彼女は、朝鮮人の子。先述の二人の朝鮮人少女の同級生が産み落とし、日本人に拾われたのであるが、本人は知らない。
かつてレイプされた時に助けてくれた朝鮮人老婆・ノブコと再会するが、女は「再開発の邪魔だから、立ち退いて朝鮮に帰ってくれ」とひどいことをいう。老女は女の出自を知っていて、近くでずっと見守ってきたのだが、本当のことを言うことはできない。どんな苦しみ・修羅場を生むかわからないのだから。でも亡霊の少女いう「知らないことは罪だよ」と。
戯曲は93年に書かれた。91年に韓国の元慰安婦当事者が初めて名乗り出たことがモチーフにある。戯曲は後半の作りが非常に緊密で、多くの問題を考えさせる。そのシンプルさをストイックな舞台に仕上げて、男の「罪」(不作為の罪も含め)を突きつけられるような思いがした