満足度★★★★
2016年にオフブロードウエイで初演された20年ほど前のイスラエルとPLOの電撃的なオスロ平和合意の舞台裏のドラマである。なぜ、ヨーロッパの中でも影の薄いノルウエイの外交官夫婦の手で、米ロが散々てこずった中東平和が一時的でも実現したか。
イスラエル問題は、日本では、実際にその地を踏んだ人も少なく、ヨーロッパと中東の間に位置する文化的複雑さもあって核心がなかなかつかめない。長年の課題解決を、舞台では、夫婦の粘り強い交渉術(多分事実なのであろう)を実在人物を織り交ぜながら見せていく。
いはば、歴史ドキュメンタリー実話ものだが、英米で、たちまちオフから大劇場公演に移ってトニー賞はじめ多くの賞を受賞したのは、距離的にも、文化的にも事件への身近さが大いに影響したのだと思う。この公演はジャニーズの主演興行でいつもなら、グローブ座だろう。今回は新国立の中劇場で1階だけでも千人を超える客席の大劇場である。2階は締めているが、客席を埋めたのはほとんどが三十歳以下の、久しぶりの芝居見物と気合がはいるファンクラブの女性観劇客で、男性客は合わせて二十人もいなかった。オスロ合意のころは生まれたばかりだった観客でこの内容、大丈夫か、と思ったが、結構ダレない。
内容は政治劇で、パレスチナ問題の難しさにももちろん触れるのだが、ドラマの軸を、無理難題の中での目的達成のためにめげないで七転八倒するノルウエイの若い外交官夫婦に絞ったので、中東問題を見過ごしても夫婦の成功劇としても楽しめる。この芝居のつくりでは主役は妻役(安蘭けい)の方のようにも見えるがこの舞台は夫(坂本昌行)が主役である。
演出(上村総)はすっかり大舞台にも慣れていて、多くの場面を照明を変え、プロジェクションマッピングも多用して現実感も見せながらテンポよく運んでいく。俳優の動かし方など見事である。しかし、事件の大きさからすると、やはり、全体が上滑りしているような感じがぬぐえない。俳優は短い時間でなじみのない実人物の性格を見せなければならない。一番大変だったのは、坂本昌行で、対立する勢力を人間的な魅力でまとめ上げて「リスクをとって世界を変えていく」役柄だがその核心がない。妻の安蘭けいの方が、腹をくくったような性格をよく表現していて好演だが、それは脚本のせいかもしれない。
1時間40分の一幕と20分の休憩をはさんで二幕1時間。コロナで自粛と言っても、配役表くらいは置いてほしい。那須佐代子が出ているのに気が付かなかった。