満足度★★★★
ニールサイモンの晩年の喜劇、十数年ぶりの再演とのことだが初演は見ていない。演出者は変わったのかもしれないが、いかにも晩年の小品である。
夫がなくなって失意の中で経済的にピンチに陥った大物作家ローズ(大地真央)が、締め切りに追われている。作品のヒントにと夫(別所哲也)の遺作を手に取るが、自分ではとても手が付けられず、娘の秘書(神田沙也加)や、たまたま手に取ったミステリのワンブックライター(村井良太)が近所にいるというので助手に呼ぶ。四人だけの登場人物で、作品を仕上げるまで。舞台の仕掛けとしては、忘れられない亡夫が終始ローザには見え(現実に舞台に出てくる)、ほかの人には見えないという約束事で、そこでの登場人物たちのすれ違いが笑いを作っていくが、ここはそれほど新味もなく、夫婦の愛情物語も型通りのベタで、折角の母娘関係の葛藤にもニールサイモンらしい切れ味がない。
出演者はミュージカルもこなせるメンバーなので、最後に短いミュージカル風なシーンもあるが、まずは収まりのいい幕切れにはなっている。しかし、いかにものブロードウエイ喜劇で、太地も神田もいつもは、キャラクターを膨らませるのにおとなしい。男優陣も伸びやかさに欠ける。観客席もまだ始まったばかりなのに三分の二くらいしか入っていないので喜劇らしく盛り上がらないのが残念。
こういう芝居は日本の商業演劇に欠けているところで、この劇場(芸術座)を始めた菊田一夫が目指したのは首都市民が一夕楽しめる東京現代演劇を作ろうという事だった。社会劇の新劇とも、伝統を引いた新派、新国劇とも違う独自ので大衆現代劇で、芸術座は三益愛子の「がめつい奴」や森光子の「放浪記」で現代商業演劇の新境地を確立したわけだが、この手の喜劇はできなかった。いまなら、三谷幸喜だろうが、続く作者が出てこない。ケラとなると、もう、このレベルは超えている。時代に合った喜劇はつくづく難しいものだと思う。
今回よかったのはホリゾントのマッピングで、こういう技術の発展も芝居を変える。