満足度★★★★
「椅子は悪くない」(2002年/ソン・ウッキョン作/上野紀子訳/鄭義信演出)、「加害者研究 -付録:謝罪文作成ガイド」(2017年/ク・ジャヘ作/洪明花訳/西尾香織演出)の2演目を鑑賞。
「椅子」は早々と売切れだったが鄭演出だからだろうか。雑貨屋に置かれた木製の椅子を一目見て釘づけになった男の話で、売り物ではなかったこの椅子を手に入れようとする男と、雑貨屋の店主、売りたがらない店主の息子(椅子を作った)、男の財布を握る妻が登場人物。実は舞台は稽古場でこの芝居のオチを探してスクラップ&ビルトを繰り返すというのが劇の概要で、最後に相応しいラストを見出す。物の価値とは何か、についての考察が意外に深い。演出、役者もこなれてうまくまとまっていた。
「加害者・・」は戯曲を見ても中々に難解で(ヴィトゲンシュタインの哲学書のような?)、演出を西尾女史に依頼したのが分かる。加害性についての考察ながら過激な内容を含み現代的。だが、時系列で書かれない散文なテキストの「割り振り」に苦慮した模様。
その後アフタートーク、シンポジウムと進み、シンポジウムは日韓演劇交流を俯瞰しつつ両国の現状報告が興味深かった。
最も見たかった「激情万里」(1991年/キム・ミョンゴン作/石川樹里訳/南慎介演出)を逃したのは残念。1990年前後の韓国映画は金明坤と安聖基(アンソンギ)が両頭という感じで、「西便制」等忘れようもないが(氏が脚本も担当していた)、この頃から既に舞台の戯曲を幾つも書いて上演していた等全く知らなかった。
この事業は当初の約束通り日韓交互開催(日本作品→韓国/韓国作品→日本)10回で20年、来年の韓国開催で1クールを終えるとの事だが、今後も何らかの形で継続される事を願う。シンポジウムが興味深かったのでまた後日報告したい。