満足度★★★★
配信で視聴。以前マキノノゾミ作品を知りたく古書店にあった戯曲(ハヤカワ演劇文庫)から想像した舞台風景とは随分違った。喜劇調(俳優の力量が左右する)で成立する作品との印象をもった。プロデュース公演だが座組は良く、既知だった平体まひろが奮闘、この役どころのピュアさがドラマを締めていた。(後でみると著名俳優陣が結構出演。)
歴史人物を取り上げた劇の一つであるが、物理学とは閃きの学問であること(芸術に通じる)、それを手にするのはごく限られた人間であること、国策、殊に戦争と無縁でないこと、しかし科学の進歩は人間の営為であること・・庶民が住まう下宿の人間模様の中に「物理学」という題材を置いた構図が良い。大学野球に情熱を燃やす若者、体制にまつろわぬ演劇人、ピアノ弾き等々のエピソードが群像劇に仕立てており、その風景の中に忍び入る戦争の描写も過不足なくである。
ただ「科学」というテーマが、恐らく原爆を視界に入れた形で語られる劇としては、語り尽くせない感は残る。朝永振一郎(をモデルにした主人公)には原子核の世界が実世界で実証された原爆投下に「興奮を覚えた」との台詞を作者は(同僚にも)言わせている。だが、現実の悲劇とは裏腹な告白が、「科学の罪悪」を意識しつつ為されたとしても、バランスがとり切れない。重い告白になるべき所、これは役者にとっては難しかった。