満足度★★★★
吉田鋼太郎があすがの貫禄で、舞台を仕切っていた。妻の若いツバメである柿澤勇人を手玉に取る老獪ぶり、すっかり相手を見直して「愛」を告白する本気ぶりが良かった。いずれもユーモアも含んだ抑制がイギリス紳士風であろうか。柿澤はパンチ一枚になる、鍛えた肉体にはほれぼれした。
逆転、また逆転のストーリー、とくに1幕の最後から2幕のはじめはまったく予測不能で、驚いた。こんな手があったのかという感じ。そのあと、柿澤演じるマイロが復讐するところは、少々迫力不足だったか。設定もアンドリューがそんなに焦るような話ではないと思う。
映画版だとふたりの階級差、英国人とよそ者(イタリア人)の格差がもっと際立つそうだが、今回の舞台はそこはかあまり感じられなかった。甘いマスクの柿澤から労働者階級の移民2世のルサンチマンを感じろといわれても難しい。例えば西尾友樹なら、感じが出るかもしれない。
それは実はもう一方の吉田鋼太郎にも言える。公私ともに充実の人気絶頂だけに、老いと肉体へのコンプレックスを読者に感じろと言われても難しい。(そう言うセリフが長々とあるわけでもない)
演出も今回は、それぞれのルサンチマンはさらりと触れる程度で、互いに相手に負けないぞという対抗心丸出しのマウンティング合戦で通していた。
作者がシェーファーというから、「ブラックコメディ」の作者と同じかと思ったら、あちらはピーター。こちらはアントニーで、双子の兄弟だった。「スルース」は2度映画化されているそうで、