満足度★★★★
この作品の原作は榊原政常氏の『しんしゃく源氏物語』。もともとは高校演劇のための戯曲だったらしい。
作曲は作曲家でありピアニストでもある寺嶋陸也さん。演出はこんにゃく座の大石哲史さん。
脚色や作詞はクレジットなし。その理由は見始めてすぐ気がつく。たぶんこれ、元の戯曲の台詞をそのままメロディに乗せてるんだ。
作曲の寺嶋さんがご自身でピアノの生演奏をなさっていて、観客にとってゼイタクなことである。
舞い散る雪や枯れ葉や花びらが季節の移ろいを示す中、女たちは夢と諦めの間でその人の訪れを待つ。
信じても諦めても、結局は朽ちていく屋敷の中でただ待ち続けることができるだけだ。
由緒正しい血筋の姫はおっとりとした人柄で、個性的な長い鼻の先はちょっと赤い。世慣れていないため人付き合いも不器用で、ただひたすらにあの方のことを信じて待ち続ける。しかしその方は遠方に追いやられ、姫の屋敷は寂れるばかり。わずかな使用人もしだいに逃げだしていく。
女性ばかり7名のキャストはそれぞれ個性的で、きれいごとばかりではない女たちの本音をにじませていく。
歌い上げられるセリフは時に辛辣であったり、俗っぽかったりもして、思わずニヤッとしてしまう。
ハッピーエンドに見える結末も、結局は待つことしかできなかった姫のセリフにほろ苦さを含ませて、面白くてやがて哀しき……という物語。
休憩を挟んで約2時間20分。休憩後の屋敷の寂れた様子と藤の花が印象的だった。
キャストはそれぞれはまり役で、物語に生き生きと生命を吹き込んだ。ダブルキャストなのに都合で一方しか拝見できなかったのが残念に思えた。