ある八重子物語 公演情報 劇団民藝+こまつ座「ある八重子物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    月乃(吉田陽子)、ゆきゑ(桜井明美)、花代(有森也実)と、三人の芸者それぞれの身の上話が一~三幕の中心になる。やはり二幕の、ゆきゑと、女形を研究する京大生の弟・一夫(塩田泰久)の話が抜群に面白い。これは新派の芝居『滝の白糸』の、白糸と村越欽弥と重なるそうだ(パンフレットの水落潔原稿による)。姉弟の再開・身の上話にはジンときた。珍しく目頭が熱くなった。

    さらに二幕には、女装した一夫が、「姉と瓜二つ」と池田徳蔵に求婚される勘違い喜劇もある。徳三は『日本橋』の葛木晋三だそうだ。これを女装した男に男が惚れてしまう「勘違い喜劇」にしたところが、井上ひさしの趣向…だとおもう。まさか新派で、そんな展開はないと思う。
    一夫役は新派で初演した時、中村勘九郎が演じ、特に客席をわかせたそうだ(『全芝居』扇田昭彦解説)。今回、全く別の俳優でも、一夫役が一番花があった。第三幕は一夫が出てこないので、少々寂しく感じるほど。華のある役者に当て書きした役は、役自体にその役者のオーラが乗り移るのだろうか?
     
    ユーモアと、ドタバタコメディまで盛り込んだ楽しい芝居は、民芸には珍しい。でも自家薬籠中のものとして、楽しく、笑いの多い芝居に仕上げてくれた。ただ、神田川に架かる「柳橋」を、舞台奥の2階に作っていたが、舞台手前の空きスペースを橋に見立てたほうが、見やすかったと思う。

    病院従業員の三人の掛け合いは、「闇に咲く花」のお面工場の女性たちのようだ。
    また、うっかり入営に遅れて逃げている一夫は「きらめく星座」の脱走兵の長男のよう。これは「人間合格」の地下活動家や、「太鼓たたいて」の農家の男、「私は誰でしょう」の記憶喪失の男にも共通点のある人物。時々現れて舞台のトリックスターになる。
    このように井上ひさしの得意技がしっかり盛り込まれていた。

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    2020/12/28 12:10

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