満足度★★★★
漢字一文字のタイトルで3公演目、若い劇団と思いきや、第一回公演から文学座佐川氏ら実力派の名が並ぶ。作・演出としては見なかった名だが社会派歴史劇の趣きもあっておっかなびっくりで観に行った。
KASSAIのステージをディスタンスで眺める格好。白い壁にキャンバス用の金具が付いており、美術館と判るが、「これから架かる」のか「取り外された」跡なのか不明。壁の右手奥が美術館内部、下手袖が外部への出口というシンプルな動線、つなぎを着た2人の学芸員アラン(根来武志)、マルセル(内藤裕志)が輸送対象となった絵画を丁寧に「処置」する作業場が白壁前の狭いエリアであり、また美術への造詣を自認するドイツ輸送担当官の女性カサンドラ(さかい蜜柑)が胸糞悪くなる論評を開陳し、ヒトラーとゲッペルス、そして自分の所蔵とすべく絵画を選定するのもここ。ドイツ人の画商ロルフ(佐川和正)はもみ手しながらカサンドラの選から運よく漏れた絵画(印象派等)の中から抜いているらしいが、この2名と美術館側である館長ジャン(西岡野人)、臨時管理人ヴァロン(染谷歩)の敵対構図、そこに新たにナチスの芸術作品保護担当として着任したヴォルフラム伯爵(桝谷裕)という予期せぬ味方の登場により序盤にドラマ性が高まる。
美術館が舞台という事もあるが、全体に静かな舞台であり、それは作者でもある染谷女史演じるヴァロンが最後まで変えない憂いの表情にも似ている。
評価の中心は戯曲の出来にならざるを得ないが、はっきり言えば序盤からのディテイルに弱さがある。しかし美術品を奪う者たちと対峙しているのは「真に絵を愛する者たち」であり、「本当に絵を愛する者ならば・・するはずだ」という信念、芸術への態度からその者の人間性を読み取る目を武器とし、彼らは「闘っている」という視点が明確にある。
印象的な場面を紹介したくなるがまた後日。