満足度★★★★
新宿の南口ががらりと変わった。全国に向けて長距離バスがひきりなしに発着する新しい大型ビル、バス駅ビル・バスタがJR新宿駅と高島屋の間を埋めた。その5階にできたRUMINE0は劇場というより、イベントスペースと言った方がいいかもしれない。雰囲気は表参道のスパイラルホールに似ている。新宿としては結構小じゃれている。
新世代演劇としてもうかなり長い間期待の星とされてきた藤田貴大のマームとジプシーの公演である。
かなり広いスペースに平台展示からスクリーンや楽器を置いたスペースがあり、その半分は照明が落とせるようになっていて、そこでパフォ-マンスが演じられる。俳優は青柳いづみひとり。出し物は5つくらいあって、そこから三本を組み合わせてみる。中身短く15分程度、一応パフォーマンス枠は2時間枠だから、あとの1時間あまりは、展示物を見ながら過すことになる。私が見た回のパフォーマンスは、藤田の「animals」と川上未映子の「冬の扉」と「治療・コスモスの咲く家」の三本。最初は紙芝居仕立ての動物寓話的な童話・人形劇、川上の「冬の扉」は朗読風。長い衣装替えを見せてくれたあとは、一人芝居。
テキストは女性向写真ファッション雑誌のコピーのように気が利いていて、引き付けられるところもあるが、三つの趣向の違うパフォーマンスを一人でやるのは荷が重い。「冬の扉」は十代最後の冬を迎える女性の語りになっているので、青柳の年齢では中途半端で実年齢と役年齢がまじりあってテキストが濁ってしまう。休憩になると、いかにも総タイトルの遊園地風のピエロ衣装の場内整理係がうろうろするのもしらける。
展示物はさまざまで、靴作りの内幕を見せるとか、本の直売場などもあるが、ミステリが一つも並んでいなかったのが印象に残った。答えが最後に明確になるものはこの公演にはないのだ。展示物の一つにあった「ぬいぐるみたちが、何だか変だよと囁いている引っ越しの夜」(このテキストは穂村弘)がこの公演のなんだか変なカラーをよく示している。
形としては、グッズを売る方が主でないかと思わせるような、2.5ディメンションの劇場に似ているが、ここにある2.5的な手触りは「なんだか変な空気」で、そこが新しいと言えばいえるし、そう思えば悪くないが、生活者の大人は、どうだろう。これで大人が乗ってくると考えるのは若さの特権だが、ファン以上には広がっていかないだろう。師匠筋の野田のドラマは、生活者をおろそかにしてはいない。
休憩にビルの屋上庭園に出てみる。新宿から西の富士山まで見渡せる。新宿も変わった。新宿の演劇地図は紀伊国屋とコマがリードしてきたが、その時代はおわって、いまはルミネ座よしもとだ。演劇に、テレビタレントや芸人から出発した人たちが大きな役割を占めるようになったこと、演劇興行がイベント化して例えば、2.5ディメンションやショーが盛んにおこなわれるようになったことで、今演劇はまた曲がり角を曲がろうとしている。新設のREMINE0が加わってどのような展開になるかコロナ後が楽しみでもある。