満足度★★★
鴻上尚史の舞台はどこか破茶滅茶なものだが、今回は作品内部の矛盾が解決しきらないまま、支離滅裂寸前にまで至った。自殺志望の3人がネットで知り合って集まる。自殺のために。しかし、その一人は、かつて教え子の高校生を自殺させてしまった元スクールカウンセラー(南沢奈央)。彼女にしか見えないその生徒の幻(須藤蓮)が常に傍にいる。彼女は自殺を止めようと来たのだが…これがホップ。
しかし、自殺志願者のリーダー(柿澤勇人)は人格分裂気味。発作が起きて、「自粛警察と戦い隊」を立ち上げ、自殺グループは「戦い隊」に変えられちゃう。その隊が取り組むのは、「泣いた赤鬼」の芝居。これを近くの保育園で慰問公演したら、自粛警察がやってきて公演をぶち壊し、そのことで彼らの横暴ぶりを世にアピールできるというのだが。ナントも回りくどい設定である。舞台でやるのは「泣いた赤鬼」のリハーサル。名作だとは思うが、お遊戯に付き合わされるのはちとしんどい。ここでステップ。
自粛警察のような同調圧力への鬱憤を爆発させようとしたのだが、最後は大江健三郎のような尻すぼみ。正気に戻ったというのでは、一種の夢オチで、カタルシスに至らなかった。演者と客席で「自粛警察と戦い隊」の歌は歌ったけれど、自殺志願隊と戦い隊の分裂が結局最後まで統一できなかった。
舞台美術は通販の箱を積み上げた壁。場が進むにつれ、増殖し、最後は壁面全てをお覆い尽くす。ここにコロナの巣篭もりの暗喩があるが、「だからナンなの?」という気もする。ハルシオンは、睡眠薬の名前らしい。自殺したい不眠症者の象徴である。でもハルシオン・デイズとは、平穏な日々という意味らしい。