拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿 公演情報 燐光群「拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    右、左、とはっきり色分けされたドラマで覇を競った政治劇と言うジャンルが盛んだったのは、もう半世紀余も昔なる。いま政治にドラマを設定するには難しい時代である。
    新劇と色分けされている新劇団はもっぱら左だったが、ここの劇のテーマは画一的で、ファンが気炎を上げるにはいいが、一般観客には退屈で次第に支持を失っていった。
    このドラマでは、現代の国民主権の民主主義に殉じた役人が描かれ、その対比に天皇制に殉じた戦前の徴兵対象になった国民全員が置かれている。国家権力が天皇から国民の民主的な選挙による総理大臣になっただけで、政府の全体主義志向は収まらず、国民は民主主義の中で生きる自由を脅かされている、という主張なのだが、それは国民にはよくわかっている。それは反対!といくら言っても解決しないからいら立っているのだ。
    新劇の作者たちはおおむね左だったが、その陣営が広く支持を集められるような作品は多くはできなかった。例えば、亡くなった斎藤憐は政治劇をそれこそ山のように書いたが、打率は高くない。しかし、「上海バンスキング」と「グレイクリスマス」という時代を超えられる作品を残した。ともに政治に人生を狂わされた人々を描いているが直接的な主張は背景に退いている。単純に右左と言っていてはドラマにもならなければ観客も集まらない。今の世界を生きている人々の細かい心のひだに触れなければ折角のドラマを作る意味がない。大きすぎて漠然としている徴兵制や公務員のコードよりも、天皇制を扱うなら、不遇の大正天皇の夫婦生活を描いた「治天の君」の方が腑に落ちる。素材の選び方も、それを扱う手つきも、上からでは物事を掴み切れない難しい時代になった。
    ア―フタトークに前川元文部次官が出てきて、安部よりも菅の方が組織として全体主義的権力を貫く志向が強いから危険だという話をした。本当に危ない、と二度も言ったのでいまわれわれのいる場所の難しさはよく解った。坂手洋二も多作の人だが、自らが権威になることなくいい作品が残るよう期待している。

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    2020/11/18 13:14

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