BLACK OUT 公演情報 東京夜光「BLACK OUT」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    作演出の名もユニット名も初、星のホールのNEXT COLLECTION(注目の若手)にしては小劇場の実力派を揃えており、評判も良いのでコロナ後初の三鷹(最遠方)へ足を運んだ。
    小劇場演劇界のあるあるを超えて当事者だから書ける生々しい逸話が、2月後半あたり、つまりコロナ事態の迫る状況を背景に展開し、フィクションながら(観劇屋として)身に詰まされるリアルなドラマであった。
    作演出を夢見る(まあまあ書ける)主人公が、「仕事はあり金にもなる」演助のオファーを受け、夢と天秤に掛けて手堅い将来像を思い描くあたりは切ない。
    芝居の大部分はあるプロデュース公演の稽古。映像の仕事にかまけて?ブランクのあった鬼木が久々に舞台の仕事を受け、企画段階とは異なるコロナを題材に自分としては満足の行く台本で挑もうと意気込み、先の主人公も制作担当である旧知の女性の声掛けで演助に入っている。所が問題発生、観客の7割を動員するだろう事務所所属の若手俳優が台本に異論を唱えた。「今苦しんでいる人がいるのに何故コロナか」(彼なりの真剣な意見)。一度疑問を呈して黙ったが、いつか答えが解るだろうと思ってたが未だに理解不能と彼は言い、説得に失敗。結局鬼木は台本を書き直す事になる。「バイトのつもりで頑張る事にするよ」と主人公にこぼす鬼木。
    物語は、主人公の「作演出者への夢」と「演助への期待度が高い現実」の葛藤の構図の中に意味づけられながら展開する。「夢」の片隅にいた制作の女性が実は婚約していて妊娠中、最後の仕事として鬼木の作演舞台を企画した事が後に判ったり(主人公は彼女と大学時代から演劇を作った仲で自分の夢も語り共有してくれていると思っていた)、演助を受ける代わりに鬼木に自作を渡してもらうよう依頼していたが今の仕事の中で渡すタイミングなく過ぎていた頃、別のルートから作演オファーが来て舞い上がる。一方「コロナ」から「不倫」をテーマに変えた鬼木の舞台は転換手順の検証など粛々と進み、主人公は演助の役割を見事にこなして信頼を得るが、作品の「中身」は観客には伏せられている。そこで主人公による舌禍事件発生。確か照明スタッフとして稽古参加し気安くなった声力のある女性に、つい通し稽古の感想を漏らす。相手は「演助」としての彼に「うまく行った」感想を期待したのだが彼は首を傾げ、「え、え、何、問題あった?」と突っ込まれて「正直自分がやった方がうまく行く気がする、台本も含めて」と本音を漏らす的にこぼす。「お前がそれ言ってんじゃねえ!」と一刀両断された直後(この先が「通常ない」だろう展開だが面白くなる)、稽古場の片隅でのこのやり取りに気づいた鬼木が、記録のために録っていた主人公のレコーダーを見つけ(このかん主人公は手も出せない)、会話の全てが全員が聴く中で再生される。次に主人公がとった行動が哀れで滑稽で、普通なら脇役に振られる類の中々なシーン。「演劇界」で生きて行こうとする彼の本心が実力者鬼木にすがりつき己の非を詫び、受けたオファーも断ると宣言するという行動へと突き動かす。つまり演助として「食って行く」道を選択したと見えるのだが、同時に「作演出」を貫く器ではない、との周囲の評価そのままが露呈した風景にもなる(自分を対象にしなければこうは書けないだろう)。が、主人公がオファー元に電話をした携帯を鬼木が取り上げ、「彼、今酔っぱらってるんです。仕事、とても喜んでまして。では」と相手に言って切る。それをきっかけにだったか、主人公はついに自分の本音に居直り、コロナの芝居の方が断然面白かった事、新しい台本がつまらないゆえに通し稽古もつまらない事、皆がそれを指摘しない事の欺瞞を吐き出すように言う。この瞬間は一旦突き落とされた地獄(世間)から、かつて魅せられ信じた演劇に対する思い(己にとっての真実)に踏み止まった瞬間とも言え、胸を掴まれる。鬼木は「面白くないと言われれば、謝るしかない」と頭を垂れ、「面白くないのなら面白くするしかない」と彼に稽古の進行を頼む。周囲は再び稽古に戻って行く。
    もみくちゃになりながら舞台を作ってもコロナには勝てなかった結末を含め、演劇製作者へのエールになっていた。

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    2020/09/07 07:18

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