満足度★★★★
鑑賞日2020/04/06 (月) 14:00
座席2列
『ヘンリー・リー・ルーカスは殺してしまう』
宇野正玖のルーカス愛に満ちた一編。表版と称する意味も、さもありなんの、ヘンリー・リー・ルーカス一代記である。舞台は、伝記を書こうと目論んだジャーナリストが獄中のルーカスに会いに来る場面から始まるといったオーソドクスな作り。少年・青年・壮年のヘンリーを3人の役者(大森さつき、平良和義 渡辺一人)で演じ分け、彼の精神史と行動を丹念に描き尽くす。
その陰惨な幼少期、母親のヴィオラの登場シーンは強烈で、物語の前半まで彼女の存在感が、在不在にかかわらず舞台全体を支配する。
中盤のヘンリーは少女ベッキーとの犯罪行における純情と蛮行。ベッキーがキリスト教信仰に至る場面でのヘンリーとの気持ちの乖離の描き方は丁寧で、愛したい・愛されたいというヘンリーのもがきが観客の心を掴む。
ストーリーの悲劇性は留まること知らないが、それでも、時折訪れるヘンリーの心の安寧に観客も安堵することが、観劇での大きな拠り所になっている。
監獄でのヘンリーは、むしろ神々しささへまとい、浄化を経たかのようだ。
ただ、舞台の広がりを求めたのだろうけれど〈裏〉を含めて、ビデオ画像に頼る演出はちょっと興覚めなところが多い。山中での犯行や草原での遺体の処理など、限られた狭い舞台では表現しづらいことは理解できるのだけれど、その場面の意味も含めて舞台上に顕在化させることはできなかったのだろうか。