満足度★★★★
こたびの新作はドガドガの要素の一である艶路線にぐぐっと踏み込んだ作で、野坂昭如による興味深い題材を舞台化した稀有な産物を目にした。
難点から言えば、、受け止め方にも拠るが、戯曲上のお家芸は歴史の中に物語を据える作りである所、今作の舞台は太平洋戦争開戦からミッドウェー海戦の手前まで、即ち日本が破竹の勢いでアジアの広域を軍事制圧下に押えた時期まで。冒頭戦勝の報に人々が湧く場面総集編が置かれ、また別の場面では自分のためでなく自分が誰のために役立てるかを考えねば(オリンピックもあるし)、という台詞、そしてラストは軍歌が立て続けに2曲、最後はフルコーラスを歌って赤紙青年を送り出す・・で幕。「日々の暮らしに文句もあろうが今は日本が大変な時、自分が国に対してどう役に立てるのかを考え、生きがいにしよう」・・このメッセージでまとめた劇であった、と結論付けても違和感のない作りになっていた。大いなる皮肉で締め括った、というような仄めかしもなく、やや後味が悪い。
一方、主役である空気読まない噺家の台詞「軍服に髭をはやした野郎共が幅を利かせやがって」が唯一「アンチ軍国化」を言語化した台詞と言えるが、酔った彼がそう言うのを友人が必死で止める、という場面は「現代」に重ねた皮肉と読める。だがこれ一つのみで最後の軍歌代斉唱を「皮肉」と解釈するのは中々厳しい(演出意図はそうであったとしても)。また「他者のために生きる」メッセージそのものは正しい、とのエクスキューズがあるのやも知れぬが、いやいや。語る文脈が言葉そのものより重要であるのは敢えて説明する事でもない。
それにしても客席はまばらでこれは客としても淋しかった。