第一回実験室朗読会「夢十夜」 公演情報 スカレッティーナ演劇研究所「第一回実験室朗読会「夢十夜」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     2020.2.7㈮PM20:00/2.8㈯PM17:00 東中野RAFT

     寒の戻りの染み入るような寒さのただ中、金曜日の夜と土曜日の夕方、東中野RAFTで上演していたスカレッティーナ演劇研究所 第一回 実験室朗読会『夢十夜』に足を運んだ。

     小西優司さん主宰のスカレッティーナ演劇研究所の朗読会は、2/8㈯17時の小西優司さんの独演会以外は、11名のメンバーの中から4~5名をレギュラーとして全ステージに出演しそれ以外は出演者が日替わりとなり、そこへ毎日日替わりのゲスト出演者を加えた10名で『夢十夜』を1話ずつ朗読する形式。

     劇場に入ると、真ん中に斜めに置かれた椅子が一脚あり、その椅子を挟むように左右に向かい合わせて椅子が並べられ、真ん中の椅子の真上に小さな電球と天井から白い枝が間を空けて数本下がっているだけの簡素な空間が広がっていた。
     
     此処で、10名による『夢十夜』と小西優司さん一人の『夢十夜』を観た。

     『夢十夜』は、夏目漱石の「こんな夢を見た」で始まる、執筆当時の現在(明治)、神代・鎌倉、100年後と、10の幻想的で不思議な夢の物語。

     先ずは、2/7㈮20時のゲスト出演者葵ミサさん、相良信頼さんを加えた10名による『夢十夜』の感想から。

     字数の制限もあるので、特に好きな話3つに絞って書きたいと思う。

     第一夜の布団に仰向けに臥せり、今しも命が潰えようとしている女の枕元にいる男に「もう死にます」と言いながら、そうとも見えぬ程瑞々しい女の顔を見つめる男に、何度か「もう死にます」と言い続ける女が、1死んだらまた会いに来るので、墓のそばで100年待っていて欲しいと言うような言葉を残して息絶える女の儚く消え入りそうなか弱さと男への蒼く燃える炎の様な恋情、墓の傍に座り、どれ程日数が経ったのか分からなくなった頃、女に騙されたのではないかと思いつつも座り続けていたある日、石の下から一本の茎が伸び、花開いた一輪の真白い百合に留まる雫に接吻して、100年が経ったことを知る男の女への思いが、葵ミサさんの声で深と張り詰めた清く蒼い月夜の情景の中にひんやりと静かに描かれて美しかった。

     第三夜の背負っていた六歳になる我が子の眼は潰れていてまるで大人のように話し始めるのだが、子供は眼が見えないのに周りの風景を言い当て、恐ろしさを感じ森に子を捨てようと思った途端に、子は、「お父さん重いかい?今に重くなるよ」と言い、その後も背中で独り言のように心を見透かす事を言う子を背負いながら、森に入りやがて杉の木の前に辿りいた時、 子が「お前が俺を殺したのは丁度100年前だね」と言うや否や、100年前に盲人を殺した記憶が蘇った刹那、背中の子が石地蔵のように重くなるという怪談めいた話を、竹田真季さんのあどけない子供が徐々に不穏さを増し、大人び、怖さを孕む変化と父の一足ごとに増して来る子に対する恐怖と前世の記憶の底に沈み揺らめき、浮き上がって来る予感と思い出した時の戦きを感じ、黒く不気味な夜の森への道に佇む、膚が粟立つ不安と怖さを感じた。

     第六夜、仏師の運慶が山門で仁王を掘っているのを見物していた中の一人の男が、見ているうちに自分も仁王を掘ってみたくて堪らなくなり、家に帰って幾体も仁王を掘ってはみたもののそのどれにも仁王は宿っておらず、運慶が運慶たるゆえを知るというこの話を、相良信頼さんの歯切れの良い畳み掛けるようなテンポと朗読が心地好かった。

     十人十色の『夢十夜』は、時に怖く、時に可笑しく、時に痛ましく、時に切なく、時に美しくそれぞれに、明確な情景と像を結ぶ朗読だった。

     続いて小西優司さんの『夢十夜』独演会。

     此処でも、やはり一番好きなのは、第一夜。なので、第一夜の感想を。

     凄かったのは、男の時間の流れを声で感じたこと。女を看取る時の張りのある壮年の声が、日がどれ程経ったのか分からなくなり、おんなに騙されたのではないかと思い始めた後あたりに、ふっと超えの質が年古り、嗄れ、皺をよったようになり、最後のくだりになった時、『嗚呼、100年経っていたのだ』という事を、耳と膚で感じた。

     そのほんの僅かの境目、時間の縫い目の移ろいを声で感じた凄さ。

     この第一夜を聴いただけで、独演会を観て、聴いて良かったと思った。

     他にも、この話は、「黙れ、小僧!」のあの方や独特のナレーションでお馴染みのあの俳優さんを彷彿させるような抑揚や声音を感じてニヤリとしたり、第三夜では、やはり、ゾクリとしたり一人十色の『夢十夜』を堪能した。

     2日間、『夢十夜』を聴き、声に出して読みたくなり、このブログを書く前に、『夢十夜』を声に出して読み返してみた。

     声に出して読みながら、東中野RAFTのあの空間、あの時間で観て聴き、瞼の裏と脳裏に結んだ映像と情景が甦ってきた。

     今でも目を閉じると、あの日観た『夢十夜』の空気と肌触りに包まれる余韻の残る朗読会だった。

                   文:麻美 雪

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    2020/02/11 12:09

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